まだまだ紹介してもらいます

――ライブ行ってみたくなりました。他にもいま渋谷さんが活動に注目している方たちを教えてもらえますか。

沼澤成毅

 沼澤さんは思い出野郎Aチームとか、大石晴子さんやさとうもかさんのバックでもやってるキーボーディストで、去年ソロで出した「結晶」という曲がすごくいい感じで。ちょっと昔のオリジナル・ラブみたいなアーバンさもあって、おしゃれな感じなんです。1曲しか出してないけど、それがすごいクオリティの高さで。あまりによかったから、さとうさんのサポートに入ってたライブ終わりに思わず話しかけちゃって。「すごくよかったです、新曲出さないんですか」と聞いたら「出ますよ」と言ってて、まだ出てないんですけどそれをずっと楽しみにしています(笑)。

現代の山火事

 シンムラテツヤさんという関西のシンガーソングライターが始めたバンドで、2022年に出した初音源がかっこよくて。エキゾチック・ニューウェーブみたいな、不思議なパンク。「パライソレコード」ってよく買うネットのレコード屋さんに、「南米音楽へのパンクからのひとつの解答」とか書いてあって、確かにちょっと独特な感じなんです。ライブ観に行きたいんだけど、なかなか都合つかなくて。

Mei Semones(メイ・セモネス)

 最近いちばんアツい才能を見たのはこの人です。ジャズギターを弾くシンガーソングライターで、ストリングスと合わせた演奏がすごくいい。歌声がちょっとボサノバっぽくて、歌詞は日本語と英語が交互に出てくるのが不思議な感じ。ミュージックビデオを見ると、ファンシーだけどちょっと不気味だったりグロテスクなニュアンスがあって、ファッションやヘアメイクも相まって、今の気分にフィットする感じです。ボストンが拠点みたいで、来日が楽しみです。

uami

 iPhoneのガレージバンドというアプリで曲を作ってる福岡在住のシンガーソングライターで、けっこうポップな曲とアブストラクトな曲の両方あって、毎週のように新曲を出してると思ったらSpotifyにあがってた曲が削除されたり、SoundCloudにまた別の曲あげたり、気分で作って気分であげてるみたいな、ドローイングをどんどん描いていくのを見せられてるような感じ。でもどれも完成度が高くてすごくいいから、曲がアップされると嬉しくなっちゃう。ライブもiPhone一台とマイクで、座ってiPhoneをいじりながら歌うんで、ずっとLINE見てるのかな、みたいな感じで、独特のカリスマ感があります。

 ここからは、ちょっと気になってる人たちという感じなんですが。

C子あまね

 「ロックバンドは恥ずかしい」とか、歌詞が面白くてポップ度が高い、演奏もクオリティの高いバンド。今っぽいんだけど、洋楽も歌謡曲も、昔のレコードをちゃんと好きな人たちが作ってるポップス、って感じがして、体系的な気持ち良さもあります。何かがカチッとハマればいつドンと人気が出てもおかしくない感じがします。

アペトゥンペとパパイヤ、マンゴーズ

 普段はアイヌの音楽をやっている人たちが、プロジェクト的にシティポップをやったみたいなんですけど、アイヌ語でシティポップをやるというのが妙にハマってて面白い。自分としては去年、シティポップ自体はちょっと食傷気味に感じていたんですが、これは新鮮でよかった。

Ogawa & Tokoro

 カクバリズム所属なこと以外、全然知らないんですが、トロピカルなインストでチルってて落ち着くから、お仕事中によく聴いちゃうバンドのひとつです。気持ちいい。

Hoach5000

 CHARAとシーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハーに影響を受けたという20代女性で、90年代に思春期だったおじさんにはちょっと懐かしさも感じさせてくれるオルタナ・ロックサウンドがシブくていい。この方は浜松のSONE RECORDSに行った時に店主さんに教えてもらいました。

――どの方も聴いてみると「好きかも」と思いました。ライブも観にいってみたいです。渋谷さんは好きになるアーティストの基準みたいなものがあるんですか。

 僕はたぶん、おしゃれな人が好きなんですよね。おしゃれっていうのは極端な言い方で、洋楽を聴いて、洋楽みたいに自分もやりたいと思ってたり、たとえばブラックミュージックのようにソウルフルに歌いたいとか、海外への憧れに向かってやってる、影響を感じさせる、みたいに思えるバンドが基本的に好き。あとは、完全にオリジナルなことをして確立している人ももちろんかっこいい。メジャーヘイトとかじゃ全然ないですけど、そういう初期衝動とか好きなものを純粋にやりたい感じがインディーには今もあって、それを観たり感じたりしたいから遊びに行ってるんだろうなと思います。

 おすすめした人を誰かにいいと思ってもらえるのは、単純にすごくうれしいです。自分にそこまで影響力があるとは思いませんが、純粋にこれからもたくさん音楽を聴いていこうと思います。

渋谷直角(しぶや・ちょっかく)

1975年生まれ、東京都練馬区出身。漫画、コラムを執筆。著書に『世界の夜は僕のもの』『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』(扶桑社)、『デザイナー渋井直人の休日』シリーズ(文藝春秋)など。
Instagram:@shibuyachokkaku

Column

TALK TIME

ゲストの方に気になる話題を語っていただくインタビューコーナーです。

(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)

2023.03.15(水)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘