1990~2000年代にカルチャー雑誌でライター、イラストレーター、コラムニストとして活躍し、2010年代以降は漫画家として『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』『デザイナー渋井直人の休日』など話題作を描いてきた渋谷直角さん。青春時代から常に音楽が仕事や生活の中にある渋谷さんに、近年聴き込むようになったというインディーズ音楽について伺いました。

90年代に流行ったソウルが再ブーム。こんな時代が来るとは……

 僕がインディーズ音楽を聴くようになったのは、ここ10年くらいです。マンガの仕事が多くなってきて、ライターとしてミュージシャンに取材する機会が減って、最新のメジャー音楽からちょっと離れる感じになって。

 音楽が仕事と関係なくなったら、昔好きだったのを聴いたりしてたんですけど、あるとき海外で「ヴィンテージ・ソウル」って括られ方で、60~70年代のソウルミュージックをリスペクトしたインディーの若いバンドがいっぱい出てきたんです。90年代にも同じように60~70年代の黒人音楽を再評価しなおす「レア・グルーヴ」という流行があって、僕もそれを通ってきてたので「あ、俺も若い頃こういうの好きだった!」ってめっちゃフィットしたんです。「こんな時代が来るとは……」と思って、若いバンドもよく聴くようになってったら、じゃあ「日本の今のインディーズはどうなのかな?」と。

 年を取るとつい懐かしむというか、音楽が落ち着く、癒されるものみたいになってくるけど、若い頃は音楽に刺激とか、価値観を新しく広げるようなものを求めていたような気がして。若い人たちのバンドももっと知りたいなってタワーレコードとかによく行くようになりました。

 最初はインディーに少し偏見というか、僕が若い頃のイメージで「クオリティはそんなに高くないんだろうな」みたいに思ってたんですけど、もう全然違って、メジャーと何の遜色もなくてびっくりしました。中村佳穂さんもまだ有名になる前にタワレコで試聴したらビックリして、慌ててライブチケットをとって観に行きました。まだ200人キャパくらいの小さなライブハウスがすさまじい熱気で溢れてて、あの規模で観られたのは貴重だったなと。

――お気に入りのアーティストはどうやって見つけるんですか。

 やっぱりレコード屋さんのおすすめは参考になります。インディー専門の「HOLIDAY! RECORDS」というショップは、ネットで買うと店主の方が一筆寄せてくれるんです。メシアと人人(にんじん)の「ククル」って曲がオルタナっぽくてかっこいいなと思って7インチレコードをそこで買ったら、「メシアと人人、良いチョイスですね! きっとこちらのバンドもお好きだと思うので、よかったら聴いてみてください」みたいな手紙が入ってて(笑)。そこから調べて新しい人を知ったりもしています。

メシアと人人のレコード「ククル」を指さす渋谷さん。
メシアと人人のレコード「ククル」を指さす渋谷さん。

 音源はSpotify やSoundCloudにも上がっているからそこで探すこともできますが、途方もない作業なんですよね。なかなか好きな感じに辿りつかない。俺の使い方が甘いのか、サジェスト機能があまり好きな人を連れてこないんです。

 ライブの対バンで知ることも多いです。illiomote(イリオモテ)という池袋出身の女性二人組が3~4組で対バンするときはだいたい相手のバンドもかっこよくて、去年はWang Dang Doodle(ワンダンドゥードゥル)というこちらも女性二人のバンドがilliomoteと出てるのを観ていいなと思って、ワンマンライブも行きました。ライブハウスは下北沢のベースメントバー、シェルター、渋谷のセブンスフロア、恵比寿のバチカあたりが多いです。100~200人くらいのキャパのライブハウスが居心地いいですね。いいバンドに出会えるとすごい満たされた気持ちになります。

2023.03.15(水)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘