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役へのリスペクトをもっともっと深めていきたい

――4歳から18歳まではバレエダンサーをめざして一筋に打ち込んでこられた。飛躍的な表現をするには地道な基礎練習が大事ということが、身に染みているのではないでしょうか。

 そうかもしれないです。基礎練習の大切さはよく知っていますし、そのときの苦しさが、心身ともにトレーニングになっていたのかなといまは思います。

 私は役の苦しみを一番近くで見ていますし、理解してあげられます。役の人物に血を通わせるような表現ができたときにはじめて、観てくださった方が何かを感じてくださる。最近特に考えるのですが、私には役に対して責任がある。だから、役へのリスペクトをもっと深めていけないと、と思っています。

――役によっては、辛い状態にある場合もありますよね? 「役のことを一番理解してあげたい」と以前からおっしゃっていますが、それによってご自身が苦しくなることはないのですか?

 自分と重ね合わせる作業をすることもありますが、私は意外と引っ張られないタイプ。現場を離れたら、切り離せます。その点は俯瞰して見ていますね。たぶん(役に)入り込んだら、どこまででも入り込めてしまうと思うんです。でも、入り込むことよりもどう表現するか、どう現場にいるかのほうが大事ですから。

――役の苦しい状態に酔っていてはいけないということですね。

 はい。だから、役のことはものすごく考えるけれども、完全には心を持っていかれないようにしていますね。そうでないと現場で対応できなくなるので。

――ものごとを俯瞰視するのは、子供のころからですか?

 どうでしょう? いまでも自分のことになるとウジウジしてしまう心配性です(笑)。でも一方で「なんとかなるか」と思ったり、「やばいかも!」と追い詰められながらも、「いまは辛いゾーンに入っているだけ。そういう時期だから」と自分に言い聞かせることもあります。

――もう1人の自分がそんなふうに冷静に言ってくれたら、心強いですね。

 キツイときはキツイですけどね(笑)。

 「もうちょっとなんとかできたんじゃないか」と落ち込んだり、「『風の時代』に入ったから、気楽に捉えていいらしいよ」と思うなど、無理やりポジティブな方向に持っていこうとするときもあります。10代後半~20代前半はもっと「自分なんて」とよく否定的になっていました。年齢を重ねて、少し楽になってきたのかもしれません。ダメな日があっていいと思えるようになりました。誰でも、コンディションのいい時と悪い時がありますよね?

2023.03.13(月)
文=黒瀬朋子
写真=松本輝一
ヘアメイク=カワムラノゾミ
スタイリスト=中井綾子(crépe)