複雑系である世界の未来を予測するのは極めて困難だが、その中でも人口というのは、かなりの確度をもって予測でき、その他の予測の前提となり得る数少ない指標のひとつなのである。

 国連報告書『世界人口推計2022年版』によると、世界人口は二〇二二年十一月十五日に八〇億人に達し、二〇三〇年に八五億人、二〇五〇年に九七億人へと増加し、二〇八〇年代中に一〇四億人でピークに達した後、二一〇〇年までそのレベルに留まると予測されている。

 これから二〇五〇年までに増加するであろう世界人口の過半数は、コンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニアの八カ国に集中し、中でもサハラ以南のアフリカの人口の倍増が予想されている。絶対数では、インドが二〇二三年には中国を抜いて、世界で最も人口が多い国になるという。

 他方、ここ数十年の間に多くの国で出生率が著しく低下し、その結果、世界の人口増加率も急速に低下してきており、二〇二〇年には一%を下回って一九五〇年以降最も低い水準になっている。更に、低レベルの出生率と移住率の上昇により人口が減少している国も増えており、二〇二二年から二〇五〇年の間に六一の国や地域において、人口が一%もしくはそれ以上減少すると見られている。

 こうした少子化と平均寿命の伸びにより、世界で高齢化が進んでいることも併せて、国連は、世界人口の規模、構成、分布の変化は、二〇一五年に採択した世界共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に大きな影響を与えるとしている。

 人口に関する古典で最も知られているのが、トマス・マルサスが一七九八年に著した『人口論』である。マルサスはこの中で、「幾何級数的に増加する人口と算術級数的に増加する食糧の差により発生する人口過剰すなわち貧困問題は、社会制度の改良では回避できない」という「マルサスの罠(人口の罠)」を唱えた。ところが実際の歴史を振り返ってみれば、「マルサスの罠」は空気中の窒素から化学肥料を作るハーバー・ボッシュ法などの技術革新により克服され、世界の人口は過去二百年爆発的に増えてきた。

2023.03.01(水)
文=堀内 勉(多摩大学社会的投資研究所教授・副所長)