世界人口は、人類の文明発祥以来、数億人規模で緩やかに推移してきたものが、大まかに言えば一九世紀初めに一〇億人、二〇世紀前半に二〇億人、二〇世紀末に六〇億人、そして現在が八〇億人と、近年急激な増加を見せている。

 そして、本書の著者であるポール・モーランドは、人口が歴史における全ての決定要因ではないと断りつつも、人類が自らの数をコントロールできるようになった一九世紀以降は、人口が歴史を動かす直接的で重要な要因になったとしている。そして、ここが本書の重要なスタートラインである。

 一八世紀に英国で農業・産業革命が起こるまでは、飢え、病気、災害などに抗する術を持たない人々の人生は、ひどく短く残酷なものだった。モーランドは、人口増加をもたらす強力な原動力として、(1)乳児死亡率、(2)出生数、(3)移民、の三つを挙げているが、公衆衛生が向上して人々の健康状態が改善されると出生数が死亡数を上回る「人口転換」と呼ばれる現象が起こり、人口が増加し始める。

 一八〇〇年前後を境に、アングロサクソン(主にブリテン人とアメリカ人)は、この人口増加と産業革命の恩恵を受けて、農業生産量の増加、輸送機関の発達、公衆衛生環境の向上などを通じて、「マルサスの罠」から逃れることができたのである。

 人口が大幅に増えると、人々は食料や新たな定住先を求めて海外へと流出し、定住した先でまた人口転換が起きる。こうした急激な人口増加は、まずイギリスに軍事力と経済力、更には文化力といったソフトパワーをもたらし、その結果、新大陸やオーストラリア、ニュージーランドに移民として展開し、大英帝国を築き上げていったのである。人口転換は、こうしてヨーロッパからアメリカ、オーストラリアやニュージーランド、ロシア、アジア、中東へと広がり、現在はアフリカまで到ろうとしている。

 本書では、イギリスの分析に続く各章で、アメリカ、ドイツ、ロシア、日本、中国、東アジア、中東、北アフリカなどの地域を分析した後、最終章において、人口転換の最後のフロンティアとして、サハラ以南のアフリカを取り上げている。この点は、上述した国連の報告書と共通の認識である。そして、モーランドはそのインパクトの大きさを、過去四十年間での最大の世界的ニュースが中国の経済成長だったとすれば、これから先の四十年間のニュースは、アフリカの人口増加になるだろうと言っている。

2023.03.01(水)
文=堀内 勉(多摩大学社会的投資研究所教授・副所長)