小説家だから、というのが言い訳になるとも思わないが、どうにも私には、プロの評論家さんやライターさんのように、こなれた筆致で解説を書くことができそうにない。しかも、私はたぶん同業者の中でも、極端にネタバレを嫌う方だと思う。担当編集者が書く「あらすじ」をチェックする際も、たいていは「そこまで書かなくても」と思いつつ、でも「何も書かなかったら読者も買ってくれないしな」と諦め、最終的に「これでいいです」と泣く泣く承諾の返信をするような小心者だ。
これが第一点。私はネタバレを極力避けたい。
そして本作『禿鷹狩り 禿鷹IV』の著者、逢坂剛先生は、私が唯一「師」と崇める小説家である。
むろん、お世話になった大先輩は他にもいる。尊敬する作家さんもたくさんいます。しかし「師匠」は一人。私に、最も大切な「執筆作法」を授けてくださった逢坂先生を措いて、「師」と仰ぐ作家はいない。
これが第二点。逢坂剛先生は筆者の「師匠」である。
さらに、本作は「禿鷹シリーズ」の第四弾に当たる。
これが初の文庫化で、しかもシリーズ第一弾の解説であれば、このシリーズの特性がどこにあるのかを書くのもいいだろう。
主人公、禿富鷹秋は「ハゲタカ」の異名を持つ、警視庁神宮警察署・生活安全特捜班に所属する、いわゆる悪徳警察官だ。管内では暴力団「渋六興業」と「敷島組」が終わりなき縄張り争いに明け暮れており、そこに、さらに「油揚げをさらう鳶」の如く南米マフィアが参戦、勢力拡大を狙う。また本作では、警察内部から禿富を討とうとする敵まで現われ、四つ巴の乱戦が繰り広げられる――。
ところがこのシリーズにおいて、それぞれの場面を映し出す「目」の役割を担うのは、あろうことか主人公の禿富鷹秋ではない。物語は、渋六興業幹部の水間であったり、傘下のクラブでママを務める真利子であったり、あるいは突如として現われる謎の人物であったりと、常に禿富の周辺人物の視点で語るスタイルが採られている。
2023.02.22(水)
文=誉田 哲也(作家)