そして、こうした地域ごとの分析を行った上で、これからの人口動向の注目すべきポイントを、(1)増加するグレー(人口の高齢化)、(2)増加するグリーン(環境に優しい世界)、(3)減っていくホワイト(白人の減少)、の三つにまとめている。

 グレーについては、今後、出産の減少と寿命の伸びが相まって、世界が急速に高齢化する中で、平和で活気がなく低リスクな社会、そして年金と介護が負担になる社会が来るだろうと予測している。グリーンについては、これからはESG(環境、社会、ガバナンス)に代表されるような環境に優しい世界が志向される、或いは志向すべきとしている。そして、ホワイトについては、一九世紀初めから二〇世紀半ばにかけて爆発的に増加した白人の割合が、これからは逆に、劇的に減少していくことになるだろうとしている。

 因みに、本書は日本についても多くの文字を割いており、仕事と育児が両立しない文化、先進国中最下位に近い男女賃金格差という悪条件下での出生率の低下を指摘し、日本がこの超少子高齢化にどう対処していくのか世界が注目しているとしている。残念ながら、日本人自身が気づいているように、もはや日本には打つ手はほとんどない状況である。ドラッカーが指摘するように、何十年も前から分かっていたにも関わらず、日本が人口問題に手をつけないできたつけは大きいと言わざるを得ない。

 このように、本書は人口という視点から近代以降の世界史を俯瞰しているのだが、これに関連して、ブラウン大学のオデッド・ガロー教授の「統一成長理論」に触れておきたい。この理論は、人類史における経済成長のプロセスを統一的に説明することを目的としている。つまり、産業革命以前の一八世紀まで続いたマルサス的停滞の時代と産業革命以後の内生的・持続的成長の時代とを、ひとつの統一的な経済成長モデルとして説明しようとするものである。

 これまでの経済学では、現代的な経済体制に「飛躍」できた先進諸国とそうでない国の違いは何だったのかという問いに統一的な説明を与える理論は存在しなかった。

2023.03.01(水)
文=堀内 勉(多摩大学社会的投資研究所教授・副所長)