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後悔を乗り越えて進む人の物語

――「人体錬成」という禁忌を犯したエドは左足と右腕を、弟のアルフォンス(アル)は肉体の全てを失います。そんな絶望のなかでも前を向き進んでいく姿を、どのようにとらえていますか?

 小学生の頃は、エドは「悲しい過去を背負った少年」というイメージが強かったんですけど、あらためて原作を読み返してみると、悲しい過去や苦しみ、後悔を乗り越えて、その先に進む人たちの物語なんですよね。演出の(石丸)さち子さんからも「これは架空のヨーロッパを舞台にした物語なので、日本人的な物語にはしたくない」と言われていますが、BGMや感傷的なセリフに流されないように、辛さや苦しみを超えたその先を表現するよう意識しています。

 まだまだ稽古中なので、この先どういうふうに仕上がっていくかは僕も予想がつきませんが……。

――一色さんが感じるエドの魅力を教えてください。

 いちばんの魅力は、まわりを信じて頼りながら絆を深めていくところです。エドは史上最年少で国家錬金術師の称号を得た天才として描かれていますが、決してひとりで突っ走ることはしません。自分が知らないことは知らないと言えるし、人に頼る・委ねることができる少年なんです。僕はそこが苦手なので、すごく尊敬しています。

 あとは、エドのまわりにはすごく魅力的な人がたくさん集まってくるんですが、原作を読むと、最初の頃は「格の違いってやつを見せてやる」というエドのセリフが、物語後半では「俺たちとお前との格の違いってやつを~」になっているんですよ。旅先で出会った人たちと絆を築きながら前に進んでいくエドのように、僕も今回の舞台で「俺たちのハガレン」を皆さまにお見せできたらいいなと思っています。

――「俺たちの」ということでは、今回は廣野凌大さんとのダブルキャストでエドワードを演じます。1人の役を2人で演じることを、どのように感じていますか?

 ダブルキャストで役を演じるのは、実は今回が初めてなんです。最初は、お互いにライバル心むきだしでギスギスするんじゃないかと不安な気持ちもありましたが、フタを開けてみたら、まったくそんなことはなく、むしろ最高のバディとして、すごくいい関係を築けています。

 廣野くんのことを僕は「凌ちゃん」と呼ばせてもらっていますが、凌ちゃんは「さっきの演技で洋平さん、こう見えていましたよ」とか、「あのシーンはまだ手を合わせないほうが原作に近いのでは」など、客観的で適切なアドバイスをしてくれるんですよね。凌ちゃんと僕とで一緒にエドを創り上げていこうと、「ザ・二人三脚」で進めているので、今回に関しては僕たちもダブルキャストでよかったね、なんて話しているくらいです。

2023.02.16(木)
文=相澤洋美
撮影=釜谷洋史