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 舞台『鋼の錬金術師』で主人公のエドワード・エルリックを演じる一色洋平さんは、なぜ俳優を目指したのでしょうか。俳優を目指した経緯や演技に対する思いなどをお聞きしました。

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「お父さんが脚本家なんだから、おまえ書けるよな」

──一色さんは映画『私をスキーに連れてって』『彼女が水着にきがえたら』などの脚本家として知られる一色伸幸さんがお父様です。有名な脚本家の息子であることをどのように思っていましたか?

 小中高を通して、芝居をやる時は必ず「お父さんが脚本家なんだから、おまえ書けるよな」と僕が脚本を任されていました。

 でも、父が脚本家だからって、素人がいきなり書けるわけないじゃないですか。最初に書いた脚本なんて、ひどいものですよ。「洋平王子と7つの剣」というタイトルで、洋平王子が海で錆びた剣を手に入れて、魔王を殴打して倒すというストーリーなんですけど、剣はその1本しか出てこないという……(笑)。

 なので、父に対してどう思うというよりは、父が脚本家だからという理由で「脚本を書け」と言われることがつらかったですね。

──それで脚本家ではなく、演じる側を目指そうと思われたのですか?

 いえ、学生時代は、役者も脚本家もやっていたんです……。みんな恥ずかしがってやらないので「主役もおまえがやれ」という感じで、脚本と主役をやらされることが多かったんですよね。

 脚本も主役も、となるとかなりのプレッシャーもありますし、責任を負わなきゃ、みたいな気持ちも出てくるので、小中学校の時はお芝居自体をそんなに楽しいとは思えませんでした。

──それがなぜ、一転して俳優を目指すようになったのでしょうか。

 「お芝居って楽しいな」と思うようになったのは、高校生の時です。高校の文化祭でも演劇があったんですが、観客投票型で良い作品は賞がもらえたんです。普段はバカなことばかりやって盛り上がってるような男子校でしたが、文化祭となるとすごく一生懸命で……。それまでどんなにうるさくても、いざ文化祭の準備が始まると、セリフを覚えたり、舞台美術をつくったり、照明を考えたりと、途端に真剣になるんです。

 西日がふわあ~っと差し込む教室で、クラス一丸となって没頭する空気感がぞくぞくするくらい魅力的で、みんなでひとつの舞台をつくりあげるって、こんなにおもしろいんだと、芝居に興味を持つようになりました。

 今回の舞台『鋼の錬金術師』は僕にとって70本目の舞台ですが、あの西日の差す放課後の景色は、これまで一度も忘れたことがありません。あの時の景色は、僕のお芝居の原風景ともいえるもので、あれ以来「演じる」ということに対して、強い魅力を感じるようになりました。

2023.02.16(木)
文=相澤洋美
撮影=釜谷洋史