俳優になりたいというと父は……
──俳優になりたいということはお父様にも相談されましたか?
はい、しました。そうしたら父から、俳優を目指すには条件が2つあると言われました。
ひとつは、ドラマや映画ではなく、舞台俳優からやること。もうひとつは、役者だけでなく、舞台の裏方から全てが学べるところで修業するということです。
ドラマや映画は、スクリーンの向こう側にどんな観客がいるのか、演じている段階ではわかりません。でも舞台では目の前にいる観客の反応がダイレクトにわかるので、まず目の前にいる観客を笑わせ、感動させられる役者になりなさい、というのが父の考えでした。
もうひとつの「舞台の裏方から全てが学べる」というのは、自分が演じる舞台が、誰のどんな苦労でできあがっているのか、しっかり理解しろということでした。どうやって舞台はつくられていくのか。どうやってチケットは売られるのか。そういうことをすべて学ぶため、早稲田大学の演劇研究会に入り、俳優活動をスタートさせました。
──TVドラマや映画の世界で活躍されているお父様から舞台俳優を勧められたことに、反発や違和感は覚えなかったのでしょうか。
僕の中でも「俳優=TVドラマや映画」というイメージが強かったので、最初は戸惑いました。でも父が「まずは、目の前の人の心を動かせる俳優になりなさい。そして、スタッフがつくりあげた舞台にただ立つのではなく、自分の舞台をゼロからつくれる俳優になったほうが、将来的に自分の役に立つ」と言ってくれたので、とにかく全部やろうと、最初の1年間はひたすら音響担当として舞台制作に関わりました。
照明も制作もやりましたが、ひと通り舞台制作に関わると、どこにスピーカーや照明を置いたら効果的か、観客の座席をどのようにするとよりよい舞台になるかなど、舞台の見え方が変わってきたんですよね。これは演じる時にもすごく勉強になりましたし、なぜ舞台が総合芸術といわれているのかが、ここでしっかり理解できたように思います。
──一色さんは、ピアノや身体を鍛えるトレーニングもされています。これも舞台をつくりあげるための「修業」の一環ですか?
ピアノは同居していた祖母が60歳を過ぎて習い始めた時、僕も2年ほど一緒に教室に通って基礎を教わり、あとは自己流で練習して合唱祭や卒業式での伴奏を担当していました。舞台のためにしていたわけではありませんが、結果的に楽譜が読めるようになったので、ミュージカルの音取りなどに役立っています。
身体を鍛えるようになったのは、中学校で陸上部に入ってからです。本当はバスケや卓球がやりたかったんですが、親友が陸上部に入るというので僕も陸上部にしました。だからいまでも僕がしている筋トレは、実はすべて陸上競技のトレーニング方法です。
2023.02.16(木)
文=相澤洋美
撮影=釜谷洋史