戦争に反対した人も、戦争を主導してしまった人も、それぞれの理屈がある。で、僕たちはどっちにもなりうる。だからこそすごく気を付けなきゃいけないと思っています。
SF要素を取り入れた理由
――書き始める時、SF要素は考えていましたか。
小川 考えてないです。でも担当編集が日和って、「ちょっとSFっぽい要素を入れてください」とか言ってきたんです。SF読者をとりこみたいってことで。それって日和ってますよね。でも、僕はその気持ちがよくわかるので、それで戦争構造学研究所がああいうかたちで出てきました。結果的に出してよかったです。
猪瀬直樹さんの『昭和16年夏の敗戦』に総力戦研究所とか模擬内閣というのが出てくるんです。それを頭において戦争構造学という架空の学問だったり、未来を予測しようとする試みだったりを書いたんですけれど、この小説を「SF小説です」というとかなり語弊がある可能性がある。そこは読んだ人が判断すると思うんですけれど。
――SF的な要素とまではいえないかもしれませんが、昨日の記者会見でも質問されていましたが、本作の主な舞台となる李家鎮で、中国人の少年が過酷な修行を積み重ねて超人的な力を獲得しますよね。あれは……。
小川 義和団について調べるうちに、あれが当時の中国人にとってのリアリズムなんだと思ったんです。当時の中国の人々がどういうふうに世界をとらえていたか、というところからスタートすると、ああいう感じにならざるを得ないというか。鍛えて鉄砲を通さない肉体になるとか、呪術とか呪文とか魔術を使う、とか。それこそ莫言が書いた『白檀の刑』とかは、ああいう人が出てくるんです。
特に当時の義和団のシーンは、莫言の小説のようなものを書こうと意識していました。この小説は、それぞれの立場の視点で満洲という国を見るというのがミッションで、あれが当時の義和団のリアリズムだったので。
――考えてみたら『君のクイズ』もSF要素はないですよね。小川さんは、SFであろうとなかろうと、面白い小説を書くことに注力されているという印象です。
2023.02.09(木)
文=瀧井 朝世