小川 『地図と拳』と『君のクイズ』がそれぞれどういう人に届くのかを考えた時、すごく願ったり叶ったりというか。僕の本を多くの読者に読んでいただけるチャンスをもらえる形になりました。

 

――去年はアンソロジー『異常論文』に収録された「SF作家の倒し方」で星雲賞日本短編部門も受賞されていますよね。実在のSF作家のお名前がばんばん出てくる内容で、あれは笑い転げながら読みました。

小川 星雲賞はもともとSFファンの悪ノリの賞なので、あの作品に与えられるのは文脈としては理にかなっているとは思うんですけれど、真面目に短篇を書いた人もいるし、というか僕もいつも真面目に短篇を書いているのに候補になっていなかったので……。真剣に書いている作家やSFのファンダムの方たちに怒られちゃうのかも、とは思いました。とはいえ、受賞したこと自体はとても嬉しかったです。

小説は建築に似ている

――『地図と拳』は前におうかがいした成り立ちをざっと言うと、ハヤカワSFコンテストで大賞を受賞したデビュー作『ユートロニカのこちら側』で「既視感がある」という感想を見かけ、ならば全然既視感がないものを書こうということでカンボジアが舞台の『ゲームの王国』を書き、そうしたら編集者から「満洲の大同都邑計画を書きませんか」という依頼がきたという。それまで満洲について特に調べたりもしていなかったそうですね。

小川 そうですね。知識もなかったです。満洲という国に対する僕のイメージは、傀儡国家というか日本人が人工的に作った国家で、国家自体がひとつの建築みたいなものでした。それで、満洲と建築がすごく筋がいい組み合わせだなと思って。

 そもそも僕は小説って建築に似てるよなと思っていたんです。家を建てて人をもてなすのと同じように、小説も空間を作るものである。僕が小説について考えていることは、建築について考えることに繋がっているかもしれないし、その建築というのは満洲という国家のメタファーでもあるので、建築という軸で通して書けるな、という感覚がありました。

2023.02.09(木)
文=瀧井 朝世