鑑賞を通じて作品の歴史の一部へ
こうした「清雅」な境地が表現された作品には、後代の文人たちも共鳴し、憧れを抱いた。前期のみの出展だったが、元時代の銭選による『浮玉山居図巻』は、南宋末期の文人で、その滅亡後、元に仕えることはせず、もっぱら詩書画に励んだ銭選の、訥々とした山水の風景と詩の後方に、元、明、清と続く多くの文人たちが、その作品を讃える跋文を長々と寄せている。
日本にも作品そのものだけでなく、歴代の持ち主がしつらえた箱や仕覆などを評価する文化はある。だが作品の後に紙を継いで寄せる跋文ならともかく、中国の書画の場合、本紙(絵や書の作品そのものが記された紙)の余白に感想や詩を書き込んだり、所蔵印を捺したり、ということが珍しくない。現代日本人としては「そんなことやっちゃっていいの!?」と思うような、作品への共感や敬慕をダイレクトに表現する鑑賞者からの「ラブコール」も、驚くことのひとつだろう。そんな中国美術の一面を、今展担当の研究員、塚本麿充さんは図録の中で、「その伝来の歴史を知り、鑑賞を通じて作品の歴史の一部へと繋がり、参与していくことができるのも、中国書画の大きな特性の一つである」と、解説している。
とはいえ、人間は「清雅」だけで生きるにあらず、なので、反対側へ振り切った「奇と狂(エキセントリック)」の絵も当然ある。その代表として登場するのが、明時代の呉彬による『山陰道上図巻』だ。
また山水、花鳥、人物の三種に大別できる作品の中から、花卉図では、官僚にはならずに一生を詩書画と共に過ごした惲寿平の、没骨法(輪郭線を用いずに彩色や墨の濃淡で形体を表現する画法)で描く『花卉図冊』に納められた、秋海棠、朝顔、菊、桃などの華やかな画を8開展示している。
いろいろ戸惑いながらも、「これが本場の正統なのか」と溜息の出る展覧会だ。しかし日本人が手本としてきた作品(日本美術のルーツ)と本場ものがこれほど異なるのは、日本人が自らの好みでチョイスしたものが正統的ではなかったのか、それともど真ん中の一流作品を手に入れることが叶わず、入手可能な「異端もの」ばかりを集めてしまった結果なのか、その「真相」はいまだに明らかになってはいない。
特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」
URL www.tnm.jp/
会場 東京国立博物館・東洋館8室
会期 2013年10月1日(火)~11月24日(日)
休館日 月曜日
入館料 一般600円(総合文化展観覧料のみ)
問い合わせ先 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
Column
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古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。
2013.11.09(土)