この記事の連載

 働く女性たちを20年以上にわたって取材してきた元AERA編集長でジャーナリストの浜田敬子さんが、その集大成ともいえる『男性中心企業の終焉』(文春新書)を上梓した。『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)の著書がある社会学者の上野千鶴子さんはどう読んだのか?ジェンダー平等に向けてようやく見え始めた企業の変化の兆しとともに、日本企業の女性を取り巻く政策を2人が語った。(全4回の4回目。#1#2#3を読む)


会社に「半身」で関わる

浜田 日本の企業や社会に何か明るい兆しはありますか。

上野 それを言われるとつらいですね(笑)。ジェンダーギャップも大きいけれど、男性のあいだの世代間ギャップがすごく大きいと感じます。若い男性たちは、自分が父親のような暮らしをできると思っていないし、いまの天皇が雅子さんにプロポーズしたときのセリフが「一生お守りします」だったそうですが、もういまの男子は怖くてそんなこと言えませんよ。

 それよりも、自分を支えてくれるしっかり者で稼得力のある女を選ぶ。可愛さより稼ぎです。そういうふうに男女関係が変わってきたら、自分だって家で何もしないわけにいかないという意識を、若い男の子たちはすごく持っていると思います。

浜田 そうですね。

上野 私はいま高齢者の研究をしています。男性の定年後が問題になっていますが、そのうち「定年女子」の問題が出てくるという人もいます。が、私は全くそうは思えません。なぜなら仕事に邁進して会社に全身捧げてきた女なんて見たことないからです(笑)。女の人の組織との関わり方は「半身」だと思います。この「半身」の関わり方は「正気」の関わり方なんです。

浜田 どこか俯瞰して見ているんですよね。

上野 俯瞰するというのは、会社に所属しない自分を持ってるからですね。家庭だけじゃなくて地域や社会活動など。女がやってきたこの会社との「半身」の関わり方が、男にも今後必要となるでしょう。それが男の働き方として標準化していけば、否応なく組織文化は変わらざるをえないだろうと思います。

浜田 メンバーシップ型が成り立たなくなってきますね。つまり今まではニンジンをぶら下げて「お前ら頑張れ」って賃金を上げて引っ張っていたわけですよね。

上野 男にとってのニンジンは賃金ではなく、ホモソーシャルな覇権ゲームのなかのポジションだったと思います。だからたとえ給料が安くても、男の社会に自分がどれだけ認めてもらえるかというのが彼らの最大の報酬で、メンバーシップ型雇用というのは、その報酬で男たちを競わせてきたのでしょう。

 そのゲームに女性は「やってられない」と思ったからこそ「半身」で関わってきたわけです。浜田さんはこの先、そのパワーゲームにフルメンバーとして入ってくる女性はいると思われますか。

2022.12.19(月)
文=鳥嶋夏歩
撮影=釜谷洋史