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「40代くらいの父親たちに嫌がらせの質問をするんです」

浜田 ところで、リモートワークが普及して地域に男性が増えたなという変化を感じています。スーパーに夕方に行くと、夏だとTシャツ短パンのお父さんが子どもを連れて買い物に来ている。男がリモートワークすると、家事育児の細かいことが目につくので、それがとても大事だと思うんです。夜中まで帰ってこないと家で何が起きていたかわからないので。

上野 私は、40代くらいの父親たちに嫌がらせの質問をするんです。子どもの友達の名前を3人以上言えますか、と。母親はすぐ言えますが、父親は言えないですもん。つまり子どもの暮らしに関心がなく、情報もないということですから。

浜田 私も最近、中高一貫の進学校の女子高で講演したんですね。みんなとても元気で、質問も企業研修よりもよっぽど手が上がり積極性もあしました。でもそのときに受けた質問から、すごく深刻だと思ったことがあります。

 一つは、「うちの両親は共働きですが、お父さんが全く家事をやらず、お母さんが1人で夜中まで家事をやっているんです。どうやったらお父さんに家事をやってもらえますか」というタイプの質問です。もう一つが、「浜田さんは女子もリーダーをやりましょうとお話しされていましたが、それは女性優遇で『上げ底』じゃないですか」というものでした。

 後で先生に聞いたら、その質問をした生徒はとても優等生だったんです。優等生ほど社会的な差別構造を内面化している。なんでそう思うのか聞くと、メディアでもSNSでもそう言われていますって。すごくショックだったと同時に、女子高校生にそこまで思わせた今の環境に対して、メディアの一員として反省もしました。

上野 すごくわかります。東大工学部の女子枠をつくるのに猛反対したのは当の工学部女子でしたから。

浜田 女性枠を作ろうとすると、内部の女子学生たちからも反対があるという話は別の大学でも聞きました。優等生が差別を内面化するっていうのは、空気を読みすぎて過剰適応するからですか。

上野 それだけじゃなく、ネオリベ的な原理を内面化しているから。正規の学力競争を勝ち抜いてきたというプライドを崩したくないからじゃないでしょうか。それに、東大男子から、「キミ、女子枠で入ったんだってね」って一生いじられるからです。

浜田 いじる男性たちの多くは中高一貫男子校の進学校出身だったりしますよね。この中高一貫男子校問題はどうしたらいいんでしょう。

上野 選抜方式を変えたらいいんです。推薦枠を全定員の3分の1くらいにするとか。いまの偏差値序列型の選抜方式を変えると、受験業界全体に大きな波及効果があるので、ものすごく難しいと思う。けれど推薦枠を大胆に増やせば、学内に多様性をもたらすことができます。

2022.12.19(月)
文=鳥嶋夏歩
撮影=釜谷洋史