この記事の連載

 働く女性たちを20年以上にわたって取材してきた元AERA編集長でジャーナリストの浜田敬子さんが、その集大成ともいえる『男性中心企業の終焉』(文春新書)を上梓した。『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)の著書がある社会学者の上野千鶴子さんはどう読んだのか?

 今後の働く女性たちの未来とは。ジェンダー平等に向けてようやく見え始めた企業の変化の兆しとともに、日本企業の女性を取り巻く政策を振り返る必読の対談!(全4回の1回目。#2#3#4を読む)


コロナ禍で見えた変化の兆し

上野 浜田さんの新刊『男性中心企業の終焉』、タイトルがいいですね。なんていったって「終焉」ですから。

浜田 これは編集部でつけていただいたタイトルなんです。私は最初そこまでの勇気がなくて。

上野 最初のタイトル案は何でした?

浜田 『本気のダイバーシティー経営』です。

上野 それは「終焉」のほうが売れます(笑)。今から30年ほど前に、経済学者の大沢真理さんが『企業中心社会を超えて』(岩波現代文庫)という本を出されました。「超えて」の30年後に「終焉」が出版されたというのは歴史的です。

浜田 ありがとうございます。

上野 浜田さんの前著『働く女子と罪悪感』(集英社文庫)の刊行時にも対談したのですが、今回の本は「その後」で、自分史的な日本企業論ですね。『働く女子と罪悪感』はタイトルを聞いたときにドキッとしましたが、今回はとてもポジティブですよね。日本企業の変化を浜田さんが感じられたのはいつからですか。

浜田 コロナ禍になってからです。本質的には今も全く変わってないですが、少しずつ変化の芽が出てきています。日本人は変化を起こすのがものすごく苦手で、自分から変わるってことは多分できないと思うんですね。それがコロナという大きなショックを受けてリモートワークが定着して、働くということは満員電車に乗って会社に行くことだというこれまでの常識が崩れたときに、ようやくいくつかの企業で変化が見えたなと思ったんです。

上野 NTTのような大会社でさえ、転勤をなくすとか、居住地はどこでもOKにするとか、あれだけの大改革をしたわけですから、確かに変化が「見える化」してきました。

浜田 この本を書きながら、「女性活躍」という言葉への違和感がどんどん膨らんできました。それは上野さんが以前から指摘されているように、男性中心企業に女性を合わせて、そこで活躍する人材をつくるというやり方の延長できていたからです。だけどコロナ禍で初めて男性の働き方にまで変わる気配が見えたと思っています。

上野 コロナ禍の前から「働き方改革」が言われてきましたが、ようやくそこまで来たんですね。自分史的企業論という意味で言えば、浜田さんの世代的な経験、つまり男女雇用機会均等法(以下、均等法)第一期生のうち、死屍累々たるサバイバル組女性たちの歴史的経験が、この本を読むととてもよくわかります。

2022.12.19(月)
文=鳥嶋夏歩
撮影=釜谷洋史