この記事の連載

 働く女性たちを20年以上にわたって取材してきた元AERA編集長でジャーナリストの浜田敬子さんが、その集大成ともいえる『男性中心企業の終焉』(文春新書)を上梓した。『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)の著書がある社会学者の上野千鶴子さんはどう読んだのか。ジェンダー平等に向けてようやく見え始めた企業の変化の兆しとともに、日本企業の女性を取り巻く政策について、2人が語った。(全4回の2回目。#1#3#4を読む)


日本企業は「恐怖と不安」で動いている

上野 私は均等法以後の30年以上を見てきて、今年の令和4年版の男女共同参画白書の出来に感心しました。結局のところ、日本は今日に至るまで30年以上、昭和型の税制・社会保障制度が女性の就労を抑制して、既婚女性には家計補助労働者であることを強いる「男性稼ぎ主モデル」を維持してきたことがよくわかるように書かれています。

浜田 そうですね。

上野 不思議でならないのは、女性を差別しない企業のほうが利益をあげられるという結果がすでに実証研究で出ているのに、実際には変化が起きないことです。つまり、日本企業が経済合理性で動いているとはとうてい思えないのです。では一体何で動いているのか。浜田さんはどう思われますか。

浜田 一つは「恐怖と不安」だと思います。自分たちのポジションがなくなって自分たちのやり方が否定されること。もう一つは、今の50代以上の成功体験が強すぎて、別のやり方がわかっていないのではないかなと思います。

上野 「無知と恐怖」ということですよね。私は「無知」だとは思わないんです。経済学者や社会学者の分析によれば、差別均衡は差別均衡によって均衡系をなしているのだと。やめられない止まらないという惰性です。それを「劣等均衡」と呼んだのが、社会学者の山口一男さんです。劣等均衡を支えているのは、同質性の高いおっさん集団からなるホモソーシャルな組織文化です。私は彼らが恐れるのはポジションがなくなることではなく、この文化がなくなることなのだと思います。いわば組織文化を維持する方向に慣性が働いているように思えます。

浜田 同質性を維持したほうが心地がいいということですよね。何もかも暗黙知で通じ合い、そのサークルの中で自分と似たような人を抜擢している。

2022.12.19(月)
文=鳥嶋夏歩
撮影=釜谷洋史