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テレビが持つ見世物小屋的な構造を示唆したかった

上出 物語のもうひとつの層でいえば、今回は実在する事件を下敷きにしているから同じ構造に取り込まれているし、なおかつ同じような事件をエンターテインメントの中で再生産している。それを持ってみんなは飯を食っていて、それは僕も同じです。この、テレビが元来持っている「人の不幸をエンターテイメントにして金を生む」見世物小屋的な構造を、今度こそ示唆したいと思ったのが今回のエンディングの目的なんです。

 みんなが心を痛めたりするような悲劇を我々は作り出している。正直、佐野さんや渡辺さんや演出家の大根仁さんからしたら、そんな制作者のエゴをほじくり出さないでくれよと思われてしまうでしょう。

 でも僕は佐野さんから依頼を受けた段階で、制作陣を満足させようと思っていないんですよ。視聴者に向けてつくっているので。制作陣はテレビの業界をえぐることで自分たちの恥部を晒しているけど、グロテスクなこの構造自体は晒していない。それを僕がエンディングで見せることで、もう1段階深い視聴体験になるのではないかと思いました。もっと丸出しで言うこともできるんですけど、ふんわりとオブラートに包むとこんな感じです。

渡辺 テレビというか、表現がそのまま持っている原罪については私も同じことを思っていました。私たちは基本的に、人の不幸を搾取しながら仕事をしています。しかも、そんなことは見せずに「いいことをしている風」に仕事をしてきてしまっている。それは視聴者にはあまり共有されてないことでもあるので、今回、上出さんがおっしゃったことが視聴者の方々に読まれることはとても意義のあることだと思います。私自身もこれをいつ打ち明けたらいいだろうとずっと思っていたので、いい白状の機会を与えていただきました。

佐野 内容に関して視聴者の方に「よくやった」「攻めてる」と言われるのですが、本作は実在の事件に着想を得ていて、参考元の事件にはまだ未解決のものも多く含まれています。そこには被害者やご遺族・ご家族などがいるなかで、やはり誰かの不幸を、乱暴な言い方をすれば食い物にして物語をつくっているという、うしろめたさがずっとありました。その方々に対する気持ちはもちろん本編にも描かれてはいるのですが、個人としてそういった気持ちを言うことはできないじゃないですか。「それでもこれを放送することに意義がある」と一方的に決めつけて、結局実際につくってしまっている。

渡辺 制作陣の恥ずかしい思いや罪悪感を含めて、あのエンディングは意味があるものになっていると思っています。それをやってもらえたことは、私たちにとってもありがたかったです。

上出 この状態で得をしているの、僕だけですね(笑)。でも、制作陣の思いがエンディングを含めたドラマ全体を通して伝わっていたらうれしいです。

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渡辺あや(わたなべ・あや)

2003年、映画『ジョゼと虎と魚たち』で脚本家デビュー。連続テレビ小説「カーネーション」が話題に。脚本を担当した作品は、映画『メゾン・ド・ヒミコ』『天然コケッコー』『ノーボーイズ,ノークライ』、テレビドラマ「火の魚」「その街のこども」「ロング・グッドバイ」など多数。民放ドラマの脚本を担当するのは、今作が初となる。


上出遼平(かみで・りょうへい)

1989年東京都生まれ。2011年にテレビ東京に入社。現在はフリーのテレビプロデューサーとして活躍。17年より「ハイパーハードボイルドグルメリポート」を制作。著書に番組の全容を綴った『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(朝日新聞出版)がある。

カンテレ・フジテレビ系ドラマ
「エルピス—希望、あるいは災い—」

カンテレ・フジテレビ系 毎週月曜日22時放送
 

出演者:長澤まさみ、眞栄田郷敦、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか

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2022.12.20(火)
文=綿貫大介
写真=佐藤 亘