「誰もが平等に生きていける社会=善」という社会通念のもとで起こる衝突

 たとえば肉食動物と草食動物の仮初の共存を描いた漫画『BEASTARS』も寓話的に「皆が平等に生きることは、我慢することでもある」というテーマを描いているが、こうした理想と現実の乖離を描かんとする作品は、この他にも多数存在する。たとえば、綿矢りさによる短編集『嫌いなら呼ぶなよ』には、整形=悪だとする整形ポリスが登場する。今村夏子の短編集『とんこつQ&A』では、メモに書いたことしか実行できない主人公が、同じ属性の後輩に対して嫌悪や対抗心を抱くマイノリティ同士のマウント合戦が描かれる。興味深いのは、これらが全て「誰もが平等に生きていける社会=善」という社会通念のもとで起こる衝突を描いているということ。

 コロナ禍も影響を及ぼし、いまのこの社会に生きづらさを感じているものの、それを表明しようものなら袋叩きに合うという恐れから何も言えなくなる――といったような新たな閉塞感も生まれつつある昨今。ここまで紹介した作品群は、いまの時代だからこそ生まれたものでもあろう。では、その先に我々が目指す場所はどこにあるのか?

 そのひとつの判断材料になりそうなのが、村田沙耶香の作品集『信仰』と、高瀬隼子の『水たまりで息をする』だ。この2作はともに、社会からの離脱→野生化を描いている。つまり、なんだか面倒くさくてしょうがない人間関係や社会生活を全部捨て去るという解決策だ。野人化までいくと突飛なことのようにも思えるが、「丁寧な暮らし」「デジタルデトックス」「二拠点生活」「リモートワーク化に伴う地方移住」といった事柄と方向性は大きく変わらない。

 この先、小説や漫画、映画にドラマ――様々な創作物において、どのような「時代の反映と反射」がみられるのか。政治・経済含めて国力の低下が叫ばれている国内で興る新たなる表現の胎動を、注視していきたい。

SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、装苑、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

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2022.12.05(月)
文=SYO