天皇陛下は生粋の「岳人」

――なぜそこで山だったのでしょうか。特集内には天皇陛下のお姿とともに、美しい山々の写真が多く掲載されていますね。

大木 天皇陛下は生粋の「岳人」です。幼い頃から登山に魅了され、これまでの山行回数は170回にも及びます。何時間もの忍耐の末に得られる爽快感や達成感。登山がもたらしてくれる多くのものは、陛下の人格形成に大きな影響を与えたに違いないと思います。山で会う人々は「たまたまそこにいた人」であり、町で出迎える人々よりも「普通の国民」に近く、素朴で穏やかなやり取りが交わされていました。陛下が国内各地を巡り、国民への「親しみ」を身につける素地にもなった美しい山の世界を紹介したい。それによって陛下の姿を伝えたい。そんな風に考えたんです。私自身も登山が好きですし。

 私としては、紙面に陛下の写真だけではなく、山の写真をなるべく多く、大きく使ってほしかった。なぜかというと、皇太子の登山というと、頂上で記念写真を撮って……みたいな写真や映像ばかりが伝えられますよね。そんなのをいくつ並べても、当人が感じたものは伝えられないと思うんです。それよりも、陛下が見た風景を私は載せたかった。だから、図版の半分ほどは山の写真にしたんです。

――なるほど、そういう経緯があったんですね。読んでいて、「陛下と同じ風景を見てみたいな」と思いました。取材はどうやって進めていったんですか?

大木 まず陛下がこれまでどのような山に登ったのか、徹底的に調べるところから始めました。共同通信のデータベースで「皇太子 山」「浩宮 山」と検索して陛下がいつどの山に登ったのか、概要を把握したところで、この本に出会いました。『歩いてみたい日本の名山―皇太子殿下の登られた百の名山ガイド』(EDICO編、西東社)です。かなり詳しく陛下の山行の歴史が書かれています。こういった書籍も参考にしながら、オリジナルのリストを作りました。「何十年前のこの日に登っていますけど、その日に一緒に行った人はいないですか」と役場に電話して、しらみつぶしに取材を続けました。

2022.11.24(木)
文=大木 賢一,佐藤 あさ子