それよりも私は、両陛下が「戦争を知らない世代」にしかできない役割を果たしてほしいと思います。「知らないけれど記憶を継承する」というのは、当たり前ですが「戦争を知っている世代」にはできない、新しい仕事です。その新しい仕事の形のようなものをぜひ天皇陛下に示していただきたい。それと同時に、陛下が今年5月の沖縄復帰50周年記念式典で「沖縄には、今なお様々な課題が残されています」と述べられたように、過去だけでなく、現在の沖縄が直面する日常の現実に真摯に心を寄せてほしいと思います。

――大木さんは2006年から2008年、共同通信の社会部で宮内庁担当でした。その経験から、2019年の代替わりの節目に新天皇の特集を組むことになった。

大木 2019年4月に上皇さまが退位されたとき、マスコミ各社がこれまでの歩みを特集するにあたり、「慰霊の旅」や「被災地訪問」といった平成皇室において重要なテーマに関するエピソードを上皇ご夫妻は数多く持っており、紹介できる内容がたくさんありました。しかし、新しいお2人にはどのようなエピソードがあるだろうかと考えてみても、あまり見当たらないのが正直なところでした。雅子さまの適応障害もあり、お2人そろっての活動も限られていました。

 

新天皇の即位で「まずは山だな」

大木 私が社会部で宮内庁担当だった時期というと、皇太子ご夫妻への週刊誌や世間の風当たりは非常に強かった。そんな中で私は“反主流派”で、正直に言いますと、上皇ご夫妻を好意的に見ることができませんでした。というのも、陛下は2004年に「雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実」と衝撃的な発言をしましたが、これは陛下が、言うに言えない家庭内の問題に苦慮した挙句、雅子さまを救う最後の一手として発したものだろうと思っていたからです。

 そういった思いから、批判の矢面に立たされている当時の皇太子さまと雅子さまには強いシンパシーを抱いていました。ですから、新しい天皇が即位されたあかつきには「私が率先して何か書かなければ」と思っていました。ではどういった姿を伝えればいいのか、どのような材料があるのかと考えたときに、「まずは山だな」と思ったんです。

2022.11.24(木)
文=大木 賢一,佐藤 あさ子