タイアップについて言うと、僕はテレビの音楽番組には出ないでやってきました。テレビが嫌いというわけではなくて、テレビというメディアの大きさが自分の身の丈に合わないという理由です。そうは言っても、テレビを100パーセント無視することはできないので、CMタイアップは言わば方便なんですよね。日本ではタイアップというと、とかく“そんなにカネが欲しいのか”みたいに言われがちですけど、そういうことじゃない。自分の作品を世に問うていく、生きる上での方法論のひとつに過ぎないわけで」
音楽文化を継承していく手助けをしていきたい
——そこには、達郎さんなりの一線の画し方もあるわけですよね。
山下「引けるものと引けないものとの差。変えるべき部分と変えちゃいけないところの違いについては、それこそずうっと考え続けてきましたから。結論としては、トレンドにはなるべく手を出さない。流行りものを排除することによって、いつ作ったかわからない、時代に左右されないものが出来上がる。全篇アカペラの『ON THE STREET CORNER(オン・ザ・ストリート・コーナー)』などは、その最たるものですよね。自分が生まれる以前の古い音楽をやることによって、逆説的に古びないという。へそ曲がりなんです(笑)。
あと、これは多分に評論家の影響もあるんだろうけど、日本はとかく芸術至上主義に傾きがちですよね。その反面、アーティスト側に入る取り分は、とかくピンハネ、未払いという理不尽が今も少なくない。1曲かかって1円、みたいな配信ビジネスも、誰のためのものかよくわからない。もとはと言えば、著作権を売っ払ってエーゲ海で遊ぶ、みたいなビジネス・モデルに問題があるんだけど、そういうシステムが生まれたアメリカには、成功者が評価されて、その上で手にした利益を社会に還元する別のサイクルもある。ヨーロッパで言うところのノブレス・オブリージュですよね。
一言で音楽文化といっても、いろんな側面、いろんなやり方がある。アヴァンギャルド・アートをやってますと言えば聞こえはいいかもしれないけど、平和な時代だからこそ通じる話であってね。シリアの難民キャンプに持って行っても、ほとんど意味を成さないわけです。だったら僕は、20代30代の人たちを少しでも引き上げることで、音楽文化を継承していく手助けをしていきたい。自分なりにできることがあるとしたら、それ以外にないと思うので」
2022.11.20(日)
文=真保 みゆき