ところが6年が経って、今はむしろ危機感を持っている方が増えている感じがする。あのころサラッとこの作品をやってしまうよりは、今のほうが視聴者の皆さんに、私たちと同じ気持ちで見ていただけるのではないかと期待しています。
組織は一枚岩ではない
――コロナ、戦争、世界の分断、安倍元首相銃撃事件、政治と旧統一教会の癒着問題。メディア・報道のあり方が大きく問われたこの2022年に、本作が放送されるというのもまた「呼ばれている」「持っている」という気がしてなりません。
渡辺 カンテレで制作が決まった2020年以降の日本と世界の激動と、それにまつわる報道を見ていて、こちら側にも先入観というものがあることを痛感しました。ドラマの中で「組織は一枚岩ではない」というセリフがよく出てくるのですが、本当にそうなんだろうな、という。
私なんかが外から見て「どうせこういうことでしょ?」と思っているよりも、人や、会社や、組織や、世の中というものは、何倍も、何十倍も複雑なんだろうと思うんですよ。恵那のように、今まで戦ったことのなかった人が、冤罪事件というリスクの高い案件の真相解明のために戦おうとすると、局内でいったいどういうことが起こるのか。
内部事情にお詳しい佐野さんをはじめ、テレビに携わる方々にたくさんお話を伺いました。「一社員が、こういうことを言い出したら何が起こると思う?」とか、「ここまでのことをやるとして、社内的にどういうハードルがある?」みたいなことを、シミュレーションしながら、つぶさに聞いて、書いていきました。
すると意外なことに、私がてっきり「すべては政権からの一方的な圧力」が原因だと思いこんでいたことも、実は社内政治だったり、もっと多様で複雑なバランスの中で起こっているのだと、改めて知りました。
「私たち人間は、システムに収まりにくい形をしている」
――このドラマを見た視聴者の方に「こんな気持ちになってもらえたらうれしい」「こういうアクションが起きたらうれしい」というようなことはありますか?
2022.11.14(月)
文=佐野華英