被害者だから、加害者だから、政治家だから、マスコミの人だから、市井の人だから……などという雑な割り振りで、記号的に描いてほしくない。どの人物にも、きちんと奥行きとか魅力とか、「実在感」を作ってくれる監督がいいと、ずっと思っていました。

 大根さんはまさにそれができる方。お年寄りも若い人も、リッチな人も貧しい人も、社会の中で虐げられている人たちのことも、愛情と観察力とを持って、すごくよく見ていらっしゃいます。

 

「企画が一度頓挫して、あれだけ絶望して…」

 企画発足から6年の歳月を経て、まるで星が一列に並ぶように、最良の「座組み」で制作され、2022年というこのタイミングで放送が決まった本作。

 冒頭で渡辺あやの執筆スタイルは「イタコ」のようであると述べたが、映画『メゾン・ド・ヒミコ』『天然コケッコー』、ドラマ『ロング・グッドバイ』(NHK)など、渡辺といくつもの仕事を共にした映画プロデューサーの小川真司氏は、渡辺のことを「シャーマン体質」と形容している(※)。

 彼女が脚本を担当する作品は不思議な力を持っていて、《その時いた良いメンバーが引き寄せられてできちゃった》ということが往々にしてあるらしい。

――作品に「呼ばれている」というような体験が、渡辺さんにも、渡辺さんと一緒に仕事された方々にもよく起こると聞きました。今回の『エルピス —希望、あるいは災い—』からも「呼ばれた」のでしょうか。

渡辺 「呼ばれている」というか、今回は特に、作品自体に意志があって生まれてきたような気がしています。企画が一度頓挫して、あれだけ絶望して、私はすっかり諦めていたのにもかかわらず、作品が不死鳥のように蘇って、実現に至っている。そして、6年前にすんなり放送されるよりも、このタイミングのほうが良かっただろうなという思いが強くあります。

 6年前、私と佐野さんはすごくぷりぷり怒っていて、大変危機感を持っていました。そのときいちばん恐ろしいと思ったのは、当時の「現状」に誰も騒いでいないということだったんです。重大な法案を、国会がとても横暴なやり方で決めていたりするのに、みんな沈黙していた。

2022.11.14(月)
文=佐野華英