一見平和で、何も起こっていないように見えるけれど、確実に「嫌なもの」が存在していて、それが薄雲みたいに、ずっとそこにはびこっている。もしかしたら私はそれを、十分に描ききれなかったかもしれない。反省点ですね。

 

長澤まさみでなければ成立しなかった

――物語の中心となる人物、恵那(長澤まさみ)、拓朗(眞栄田郷敦)、斎藤(鈴木亮平)は、脚本制作にとりかかってすぐに出てきたのでしょうか。

渡辺 いちばん最初に佐野さんと「誰をイメージキャストにしようか」という話をして、即決で「長澤まさみさんがいい」ということになりました。あれだけ長いこと第一線を走り続けている役者さんで、いろんな作品に出演されているけれど、それでもまだ「見たことのない表情」とか、「出したことのない声」がある人のように、私には思えたんです。

 人間って波があって、絶好調なときもあれば、やさぐれてるときもある。長澤さんは、そのやさぐれてる自分も「しょうがない」と、どこかで腹を括ってる感じがするんですよ。アップダウンを激しく繰り返しながら、その「波」で自分の内側を耕していらっしゃる感じがして。そういう方にこの脚本を預けたときに、すごくカラフルな表情を見られるんじゃないかと思ったんです。長澤さん主演なら、エースの座から転落した女子アナという設定がいいんじゃないかと。

 その着想を得たときに「やれるかもしれない」と強く思いました。それで2話ぐらい書いてからオファーしたら、即答で「やります」とお返事をくださいました。さらに、企画がストップした数年の間もずっと待っていてくださって。すごく嬉しかったですし、私たちにとって希望でした。この役は長澤さんしか考えられないので。

眞栄田郷敦・鈴木亮平、配役の決め手は…

――眞栄田郷敦さん、鈴木亮平さんの配役についてはいかがですか。

渡辺 書きはじめたころ、眞栄田さん演じる拓朗役は別の役者さんを想定していたんです。でも、それから6年が経ってしまいまして。「新入りディレクター」という役どころですので、実年齢も若くないといけない。別の人を探そうということになって、誰がいいかと話し合っていたところ、監督の大根仁さんが、眞栄田さんが出演された、あるバラエティ番組の映像を見せてくださったんです。

2022.11.14(月)
文=佐野華英