『女の一生』を令和の時代に上演する意味とは

——『女の一生』は、日露戦争と太平洋戦争を挟み、時代ごとに社会の「正しさ」が異なり、翻弄される人々が描かれています。令和のいま上演する意味についてはどうお感じになりますか?

 今年、『ピアフ』というお芝居をやりましたが、2月24日が初日で、ロシアがウクライナに侵攻した日でした。劇中、ピアフが歌っているところに支配人が「戦争が始まりました!」とドイツが侵攻してきたことを知らせます。5回目の上演でこれまでに感じなかったリアリティがありました。

 『女の一生』は反戦を謳ったお芝居ではありませんが、明治から昭和までの激動を生き抜いた人たちの物語です。焼け野原に立ちながらも未来に希望を持つ喜びなど、リアリティをもって演じられたらと思います。

——大竹さんご自身は、将来のビジョンを何か持っていらっしゃいますか?

 それが全然ないんです。何かしら持ったほうがいいと思いますが、自分がこんな歳になるなんてこと自体がショックで……先のことはあまり考えたくない(笑)。

 ただ、自分の意見を持つことや社会がどうなっているのかを知ることは、より大事になってきている時代だと感じています。若い人たちも「どうでもいいや」と思わずに、ご自分の心に嘘つくことなく、ご自身の意見を持って生きてほしいなと思います。

大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ)

1957年生まれ、東京都出身。1975年映画『青春の門―筑豊編―』で本格デビュー。同年、NHK連続テレビ小説『水色の時』のヒロイン役で国民的な人気に。読売演劇大賞 最優秀女優賞、菊田一夫演劇大賞ほか、数々の賞を受賞。日本を代表する女優である。舞台、映画、ドラマで活躍するかたわら、歌手、エッセイスト、ラジオパーソナリティとしても活躍。最近の主な出演舞台に『ザ・ドクター』(2021)、『ピアフ』(2022)、映画に『漁港の肉子ちゃん』(2021)、『ヘルドッグス』(2022)など。ラジオ『大竹しのぶの“スピーカーズコーナー”』(NHK)に出演中。著書に『母との食卓 まあいいか3』(幻冬舎)ほか。現在、月9ドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ)に出演中。

『女の一生』

作:森本薫
補綴:戌井市郎
演出・出演:段田安則
出演:大竹しのぶ、高橋克実、銀粉蝶、西尾まり、森田涼花、大和田美帆、林翔太、風間杜夫
東京公演:2022年10月18日(火)~23日(日) 新橋演舞場
京都公演:2022年10月27日(木)~11月8日(火) 京都四篠南座
福岡公演:2022年11月18日(金)~30日(水) 博多座

明治38年。日露戦争が終わり、戦争孤児だった布引けい(大竹しのぶ)は、ふとした縁で堤家に拾われた。けいは懸命に働きながら、堤家の次男・栄二(高橋克実)とはきょうだいのように心を通わせ、やがてほのかな恋心を抱くように。けいの働きぶりを見込んだしず(銀粉蝶)は、長男・伸太郎(段田安則)の妻となり、堤家を支えてほしいとけいに頼む……。

2022.10.18(火)
文=黒瀬朋子
ヘアメイク=新井克英
撮影=佐藤 亘