今の時代だからこそ響く名作を大竹しのぶが再演

 日露戦争と太平洋戦争、激動の時代を生き抜いたひとりの女性を描いた、森本薫作の『女の一生』。杉村春子が947回演じた名作に、大竹しのぶさんは2020年に初挑戦した。

 戦争に翻弄される人々と、コロナ禍の心情が重なるような舞台だった。このたび、前回同様、段田安則さんの演出で再演されることに。

 己の人生を生きるようにと背中を押されるような物語。思い入れ深い本作から、ご自身のお話まで語ってもらった。


コロナ禍で初心にかえることができた作品

——『女の一生』、待望の再演ですね。

 やればやるほど奥深さがわかる、すばらしい戯曲です。杉村春子さんが再演し続けたいと思われたのもよくわかります。

 初演は昭和20年4月、戦時中でした。空襲警報がいつ鳴るかわからないような状況下で、このお芝居を届けたいと思われたことに胸打たれます。私たちの初演はちょうどコロナ禍で、客席も半分に制限され、それすら埋まらない日もあり、客席いっぱいにお客様がいらっしゃるのが当たり前と思っていた自分を恥じました。

 コロナ禍でもお芝居を観たいと、劇場に足を運んでくださる方がひとりでもいらっしゃるのであれば私たちの演劇を続けようと、初心に帰ることのできた作品でした。

——森本薫さんが33歳で書いたとは思えないくらい、人生の機微が描かれた本作、どんなところに魅力を感じていらっしゃいますか?

 「誰が選んでくれたのでもない、自分で選んで歩きだした道ですもの。間違いと知ったら、間違いでないようにしなくちゃ。」という、けいの有名なセリフがあり、いまも響くメッセージだと思います。

 これ以外にも宝石のようなセリフがたくさんあります。明治・大正・昭和を生き抜いたヒロインですが、ただ明るく健気な人ではなく、嫌なところも間違える局面も描かれているところがすばらしいなと思います。

——今作で大竹さんは、主人公・布引けいの16歳から56歳まで演じられます。演出・共演の段田安則さんは、けいが本当に10代に見えて、舞台上で見入ってしまいそうになったとおっしゃっていました。段田さんとのタッグはいかがですか?

 そんなふうに言っていただいて嬉しいです。段ちゃんとは30年近く一緒にお芝居をしてきました。役者同士って、演出の領域に入るので、芝居の話をするのが実は難しいところがあるんですね。でも、段ちゃんは、唯一お芝居の相談ができる役者仲間。

 稽古中はもちろん、幕が開いてからも、「このセリフの意味はこうかな?」と聞くと「あんた、本当にしつこいね(笑)」と言いながら一緒に追求してくれます。私たち作り手は、作品世界をどこまでも追求していくのが仕事なので、奥深い本を一緒に粘ってくださるのが心強いし、ありがたいです。

2022.10.18(火)
文=黒瀬朋子
ヘアメイク=新井克英
撮影=佐藤 亘