大竹しのぶが大事にしている3つの「ち」

——大竹さんはいつでも楽しそうにされている印象があります。

 それはお仕事だから……。

——お仕事以外でお会いしたら違いますか?

 きっと違うと思います(笑)。もっとだらっとしています。

——『女の一生』のけいは16歳から、還暦のときにはミュージカル『にんじん』で少年役を見事に演じられました。演技力だけでなく、童心を大切にされているから説得力があるのでしょうか?

 人はたぶん誰でも子供みたいな部分を持っていますよね? 17歳のとき、米倉斉加年さんが、役者として、知性の「ち」、白痴の「ち」、幼稚の「ち」、3つの「ち・ち・ち」を忘れないでねと話してくださったんです。すごく素敵なことを教えていただいたなと思って大切にしています。

 あと、自分の思ったこと、感じたことを正直に口にしますね。それは普通のことだと思っていたんですが、そうでもないらしくて……。

——何をきっかけに気づかれたんですか?

 以前、出演した松尾スズキさんのお芝居に「いままで、自分の気持ちなんて口にしたことがないし」というセリフが出てきて、「へえ、そんな人がいるんだ。大変だねー」と松尾さんに言ったら、「(机をバンバン叩きながら)誰だって、そうでしょうよ!!」とものすごく驚かれました(笑)。

 私は父から、「自分の思ったことをきちんと言える人間にならなくてはいけない」と小さいときから言われて育ったんです! と反論したんですけど。

——大竹さんはオープンでいらっしゃるから、大竹さんと接する方は、みなさん素直になれるのかもしれませんね。

 「開かずの扉を開けるのがうまい」と言われます(笑)。寡黙な人でも、興味のある相手にはぐいぐい話しかけちゃいます。高倉健さんは世間では喋らないイメージですけど、ひとりで佇んでいるところにポーンと背中を叩いて「何してるのー?」と話しかけていたので、ものすごくたくさんお話ししてくれました。そんなふうに干渉されるのが嫌な人もいるかもしれないけど、せっかく一緒にいるのなら楽しく過ごしたいなと思うんです。

——スターほど孤独でしょうし、そんなふうに懐に飛び込んでくださるのは嬉しいのではないでしょうか。

 現場でも、誰とも話さずスマホばかり見てる若い人も増えています。とくにコロナ禍になって、人との付き合いは希薄になってきて寂しいですね。でも、それではつまらないと思うんです。たとえ面白くない話でも、先輩から話を聞く時間は大事かもしれないし、やっぱりきちんと相手の目を見てお話ししたいですよね。

 昔、お芝居でご一緒した若い俳優さんで、開演前のアップの輪に入らない子がいたんです。「なぜ入らないの?」と尋ねたら、「入っていいのかなと思って」と気後れしていました。

 そのとき私は言いました。「もしも素敵だな、話したいなと思う人がいたら、自分から行かないかぎり、相手からは決して来てくれないよ」と。そこから彼は変わって、みんなに交じって普通に話すようになりました。そうしたらお芝居も変わったんです。すごく嬉しくなりました。

2022.10.18(火)
文=黒瀬朋子
ヘアメイク=新井克英
撮影=佐藤 亘