「芝居は観たことはないけど、ラジオでファンになった」という声も
——大竹さんは、ご自身の人生では、女優として40年以上第一線で活躍されながら、子育てやお母様の介護もなさいました。どのように両立されたのでしょうか。
両立なんて、全然。母親としても娘としても100%はできませんでした。完璧を目指さず、いろんな人の助けを借りて、できることを精一杯やってきた感じです。
とくに子育ては、母がサポートしてくれなかったらできなかったと思います。
——お子さんが小さいときには、地方ロケでも週1日は必ず家に帰るようにされていたのだとか?
あまり長期で家を空けないようにはしていましたね。たとえば地方公演が2週間あったら、休演日の前日にいったん東京に帰って、子供を送り出してから劇場に戻っていました。映画の地方ロケも、1週間に1回は家に帰れることを条件にお仕事を受けていました。
——お子さんが成人され、4年前にお母様を見送られて、ご結婚以来はじめて、ご自分の時間をフルに使えるようになったのではありませんか?
そうですね。でも、いざそうなるとつまらなくて、何をしたらいいのかわからないんです(笑)。
——誰かのために何かをすることに喜びを感じるタイプですか?
最近、そう気づきました。いま息子と暮らしていますが、別に家事を強制されているわけではないんです。「洗濯くらい自分ですればいいのに!」と思いながらも、洗った息子の服を畳んで「はい、洗濯できたよ」という喜びがあると思ったんです。
「ご飯できたよ」という喜び、キッチンをきれいにする喜び、小さな喜びですが、それに結構支えられているなあ、と。やらないほうがもちろんラクですし、葛藤もあります(笑)。でも、ひとりの時間って、だらだらテレビを見たりするだけなので……。
——エッセイを拝読すると、お母様の江すてるさんも、最後までご家族のために役に立ちたいと思われる方だったようですね。
そうなんです。たぶん、母の血だろうと思います。
——ラジオ(『大竹しのぶの“スピーカーズコーナー”』)では、リスナーの投書に対して昔からの知り合いのように、励ましの言葉を投げかけたり、一緒に悩んだり、距離の近さを感じます。「誰かに喜んでもらいたい」という思いが、人よりも強い方なのかなと想像したのですが。
「誰かが喜んでくれると嬉しい」って、みんなそうじゃないですか? 私も同じように悩んでいると知れば、それだけで気持ちも少し楽になるかもしれないし。ラジオは人と近づける喜びがありますね。
「芝居は観たことはないけど、ラジオでファンになった」と言ってくださる方もいらっしゃいます (笑)。でも、そういう方が劇場に来てくださったら、すごく嬉しいです。
2022.10.18(火)
文=黒瀬朋子
ヘアメイク=新井克英
撮影=佐藤 亘