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智を演じているあいだ、完璧主義の自分に起きた変化

――どことなく前田さんのオフを覗いている感覚になるのも、狙いでしょうか……?

 プライベートっぽい感じを取り入れたいとは思っていました。そういう意味では、常に乗っている自転車や毎日浸かっている湯船……そんな日々のルーティンをおさめたカットもあります。ただ、お風呂ショットは狙ったというより、たまたま古民家についていたので、一緒に寝泊まりしているみたいな感覚になってもらえたらと思って撮りました。

 古民家の夜には、実際にお酒も飲んでいるんですよ(笑)。なかなかない機会なので、飲んじゃいました! 普通にいい気分でした……泡盛とつまみで、なんかニヤニヤしちゃいましたね。

――いろいろな前田さんの表情を眺められるのも、『ちゅらたび』の魅力ですね。

 ありがとうございます。……写真集のとある一枚を見ていて気付いたんですけど、僕、失敗したときにベロを出す癖があるんですよね。その癖、この歳でマジで恥ずかしいなと思っていて……。自分なら、間違いなくボツにするカットです(笑)。

――ということは、前田さんは写真のセレクトには関わっていない?

 関わっていません。僕が選ぶとなると、たぶん格好つけたセレクトになっちゃうと思うんです。むしろ関わりたくなくて。……なので、ベロ出しも載っています!

――沖縄は感性が刺激されたり、何かを感じる地だったりもしますよね。長く沖縄にいらして、自分ならではの沖縄体験はありましたか?

 かなり大きな経験がありました。いつも『ちむどんどん』の智になる(演じる)前は、朝食後に海で散歩をしていたんです。「智もこんな景色を見ながら配達してたのかな」と思いつつ、役作りで歩いていて。そうしていたら、沖縄の海って表情がその日によって変わっていることに気づいたんです。

 そのタイミングで、中学の頃に沖縄で見た180度の満点の星空を思い出したんです。まるでプラネタリウムみたいに水平線から星空が出てきて、徐々に動いていくんですよ。本当に素敵なんです。でも、それは常に見られるわけではなく、曇っていたりしてもダメだし、条件が整わないと見られないらしくて。自然はそういうことがあっても良いんだな、とふと思ったんです。

 僕はもともとすごく完璧主義で、全部を100%でやろうと思っていますし、特に『ちむどんどん』ではエネルギーを全部注げたらいいな、と思っていたんです。でも……自然ですら毎日いい表情をしているわけじゃないと気づいた瞬間に、「ああ、別に完璧じゃなくていいんだな」という感覚になれて。それは沖縄に行って過ごしたから思えたことですし、僕にとっては、すごく意味があることでした。

――東京で毎日せわしなく過ごしていると、自分のことを考えたり見つめ直す機会もないですし、沖縄の自然が気づかせてくれたという、本当に貴重な経験だったんですね。

 そうですね。完璧主義なところを崩せたことは、役者として本当に大きかったです。重圧で自分を苦しめることもあったので、そうしたこともかなりなくなりました。『ちむどんどん』の撮影を始めて半年くらいたって、徐々に抜けるようになってきたんです。

2022.09.22(木)
文=赤山恭子
撮影=深野未季
ヘアメイク=松田蓉子
スタイリスト=千葉 良(AVGVST)