――それが、ご自身が小説を書くきっかけにもなったのですね。窪さんは2010年にデビューしてから、現代人の日常以外にも、さまざまな題材を書かれていますよね。極端に少子化が進んだ近未来社会を舞台にした『アカガミ』とか、少年犯罪の加害者と被害者のその後を追った『さよなら、ニルヴァーナ』とか……。

 『アカガミ』なんて、全然SFを読んでこなかったのに「SFっぽいものを書きたい」っていう、ただそれだけで書いたという(笑)。

 

「60歳になるまで、私はあと4年しかないんです」

――昨日の記者会見で「遅咲きなので残された時間が他の作家よりも短い」から「次々と書いていきたい」とおっしゃっていました。5年以上前のインタビューでも同じことをおっしゃっていたので、ずっとそう意識されてきたんだな、と思って。

 また同年デビューの朝井さんと柚木さんの話になりますが、たとえば朝井さんが60歳になるまではあと30年くらいあるけれど、私はあと4年しかないんです。私はこの先、柚木さんの『らんたん』のような、あんなに書くのに体力を使う小説が書けるのだろうか、とも思います。お二人とも大変に優れた小説家でライバルというのもおこがましいのですが、私にとってはお二人の存在がすごくいい刺激になっていて、どんどん書いていかなくちゃという気持ちになります。

 60代、70代で書いている方もたくさんいらっしゃいますし目標だとは思っていますが、自分の体力がどんどん衰えていくことは分かっているし、精力を注ぎ込める時間はそんなにない気がして。なるべく体調を整えて、精進していきたいです。

――それだけ、書きたいことが沢山あって、かつ、早く書きたいということですか。

 そうですね。たとえば『夜に星を放つ』と同時期に「小説新潮」で連載していた『夏日狂想』は、明治、大正、昭和を生きた物書きの女の話なんですが、そうした、今の時代から昔を俯瞰して見る作品を書くのはすごく体力も使うし、神経も使うんです。なので早く書いておきたい気持ちがありました。これは9月に刊行予定です。

写真撮影=深野未季、メイク= TOMOMI・小池康友(K.e.y.)

2022.08.07(日)
文=瀧井朝世