実際は、脚本の中身にあわせて台本で立ち位置が指定されているので、それを守りながら演じていくことになります。どう動くかを、声優が一から考えないといけないわけではありません。それでも動くことによって、気をつかわないといけないことが演技の細部にわたって増えますから、演じる身としては苦労が多い手法です。

 それにくわえて、ダミーヘッドマイクもまだまだ完璧なマイクではないんです。完璧なマイクという言い方も変かもしれませんが。繊細なマイクなので、耳もとでささやいたりすると自分の息がマイクにあたってノイズになってしまい、NGになるなどトラブルも多くあります。そのため、収録に時間がかかります。

 

「日本中の女子のお世話してます」

 僕のツイッター(@moriax291)のプロフィールには「日本中の女子をお世話してます(笑)」とあります。これは「声優総選挙!3時間SP」(テレビ朝日、2017年放送)で第12位に選ばれた際に、乃木坂46の生駒里奈さんが「日本中の女の子が(森川さんの)お世話になっている」というコメントをしてくれたので、とっさに「日本中の女子のお世話してます」と返したことに由来しています。

 BLCDやシチュエーションCDなどを好む人の多くは女性です。女性は想像力がたくましいというか、音に対して敏感で、耳から入ってくる情報を頭の中で構築していく力がすごいと思うんです。すべて与えられるよりも、自分で想像して補いたい。だから女性向けと言われるオーディオドラマがたくさん作られるんでしょう。

 女性とちがって男性は全部与えてほしいんです。だから男性はあまりオーディオドラマのほうにはいきません。音だけではダメで、ビジュアル込みのものを好みます。現状の男性声優と女性声優の仕事のちがいも、そんなところからくる気がしています。

2022.07.30(土)
文=森川智之