元料理人の矢野さん「畑、醸造所は大きなキッチンだと思っている」
――イタリアンレストランのグループ「サローネグループ」が立ち上げた「グレープリパブリック」。ニュージーランドの醸造家・アレックス・クレイグヘッドさんの手法がベースとなっていると聞きます。
矢野 そうですね。置賜のブドウの個性を生かすことを意識しながら、という感じです。
岩谷 はるくん(矢野)は星付きのレストランで働いていた人だからね。
矢野 もともとイタリアで料理人をやっていました。ソムリエも兼任していたんですが、だんだんとワインのほうが好きだなと思い始め、ワイン造りの道に進みました。オーストラリアやニュージーランドで畑や醸造の経験を積み、今に至ります。
――料理人と醸造家との共通点はありますか?
矢野 僕の中ではまったく同じなんですよね。畑と醸造所は“ビッグキッチン”なんです。厨房が単に大きくなっただけ。先ほど、岩谷さんがおっしゃったように、土壌の個性で原料を作ろうと思った結果、有機栽培によるブドウ作りが自然な流れでした。ここでワイン造りをするようになってからは、僕自身、食べ物も飲み物も自然派のものしか口にしないようになりましたね。
岩谷 はるくんがグレリパ(グレープリパブリック)さんをメインでやるようになって、バランスがよくなった気がする。君の歳を感じるような若さがあって美味しい!
矢野 そう言っていただけるのは嬉しいんですけど、自分のワインを飲んで美味しいと思ったことは一回もないんです。
岩谷 一緒、一緒。
恵美 嘘だよ。うまいって言ってるやん(笑)。
岩谷 うまいけど、もうひとつ上があるんじゃないかと思うわけ。
矢野 そうそう、まだできるんじゃないかと思うんですよね。今の自分の中では美味しいんだけど、もう一段上に上がるためにはどうすればいいのかを考えるのが楽しいし、そこが一番面白いところなんです。
岩谷 ワインは“遊び”を表現しやすい醸造もの。ちょっとした遊びを入れて驚かせようと思える自由度があるんだよね。だから世界にたくさんの醸造する人がいるんです。
2022.07.30(土)
文=CREA編集部
撮影=長谷川 潤