伝説のバンド、イエローマジックオーケストラのクールさが原点

――岩谷イズムを集結させた「イエローマジックワイナリー」が目指しているものとは何でしょう。

岩谷 まずは、なぜこの名前をつけたのか。僕が中学2年生の頃にイエローマジックオーケストラを目にした時、日本人でもこんなにかっこいい音を出せるんだって、衝撃を受けました。それまで海外の音楽しか聴いてなかったから、自分の足元にあるいいものを追求する必要がある。日本やアジアをもっと知らなくちゃいけない、と思ったんです。

 イエローマジックオーケストラのファーストアルバムは、発売された1978年の“東京の音”がする。当時の東京の空気感が伝わってくるのが面白くて。こういうことをワイナリーでやりたい。流行りじゃなくて、自分たちが感じる「時」の味を作りたいんです。

――音楽から見えたワインの表現方法だったんですね。

岩谷 ヴィンテージを造れるのがワインであって、2021年に収穫したものを醸造して、その年に生まれたテロワールを翌年以降に味として伝えていく。

 それと、今年のブドウの出来が悪いからといって捨ててしまったり、農薬を使って逃げるようなやり方から卒業しようよ、という思いも込めています。僕らにはそれらをカバーできる技術や対策法があるわけで「その年にできたワインを楽しむこと」を大事にしていきたいんです。

――自然派ワインを造り続けてきた岩谷さんですが、山形でワイン造りを実際にやってみて手応えはいかがですか?

岩谷 自然派ワインを造るという意識はなくて、岩谷のワインを造っていたら結果的に自然派になった、という流れですかね。とにかく、この土地のテロワールを知りたくて、ブドウ栽培において、自分たちはいっさい農薬をまいていません。傘をさすイメージで、棚仕立ての畑にビニールさえ張っておけば、置賜の気候が病気から守ってくれる。虫がいても見ているだけです(笑)。

――ブドウ栽培、醸造は恵美さんとお二人だけでやっていらっしゃるんですよね?

岩谷 そうです。従業員はいなくて二人だけで年間3万本造っています。妻は同志なんで。

恵美(岩谷) ワイン造りはやったことなかったんですけど、手伝いながら覚えていきました。正直しんどいです(笑)。でも、草を刈った後のすがすがしさだったり、畑一面にブドウの実がぱーっとなっている光景を見たりすると、がんばったなという充実感が湧きます。

岩谷 僕は青森出身で、三内丸山遺跡があるからか縄文人がワインを造ったらどうなんだろうと考えたんですよね(笑)。手で果汁を搾るというより、足で踏むだろうなと思って。オレンジワインは妻が踏んでます。

恵美 何も考えずリズムよく踏むだけですね。

岩谷 1トンタンクに妻が入って、僕が上からブドウを放り投げるの。その年のブドウの硬さが一番分かるのが彼女です。

恵美 うちの畑で作ったデラウエアは硬いですね。足で踏んでもあまり潰れないんですよ。

岩谷 皮を硬くする仕込みをしているので、踏んでもベチョッとなりにくい。ホオズキのようにパキッと割れます。糖度が20度くらいあるのにね。

矢野 岩谷さんがうちのワイナリーのスペースを借りて醸造していたとき、僕らのやり方と全然違うなとカルチャーショックを受けましたよ。

岩谷 そうでしょ(笑)。

矢野 岩谷さんのワインはナチュラル感がきれいに出ていて、本当に美味しいと思います。

岩谷 例えば、ヒップホップ ミックス2021はブレンドせずにひとつの土壌で育てたブドウを、えんやーって樽に放り込んで造ったワインです。要するにバランスがないやつ。何かの味わいが突出しているかもしれないけど、土壌の味がそのまま出ることで、その年の味が刻まれる。ヴィンテージの意味を出したくて造ったワインです。

恵美 “畑の栄養分を全部吸い込みました”というような味。ちょっとだけシャインマスカットが入っています。

矢野 微妙な酸味があるのが、岩谷さんの個性ですよね。

岩谷 そう、手を加えてない味です。

2022.07.30(土)
文=CREA編集部
撮影=長谷川 潤