かたちを変え反復される「嘔吐」

 なんのことでしょうか。読解を始める前に、まずここで実際に聴いてみましょう。

 ♪米津玄師「Lemon」

「未だにあなたのことを夢に見る」のあとに最初に登場し、その後4小節毎に繰り返される「ウェッ」という声。この曲を最初に聴いたときに、この声が耳に引っかからない人はほとんどいないんじゃないでしょうか。

 果たしてネットでもかなり話題になったようです。ネットで、この声を「小さいオッサンがえずいている声」と表現している人がいて、ウケましたw この曲はテレビドラマ「アンナチュラル」の主題歌でした。金曜の夜になるたびに、この「ウェッ」が日本中のお茶の間に鳴り響いたのだと想像するとワクワクしたし、改めて、米津さんが米津さんのままスターダムに登ってくれたことを心から嬉しく思ったものです。

 

 やはり目立つ部分なので、あるラジオ番組出演時にこの声について問われて、彼はこう答えていたようです。「声をサンプリング(注2)し、リズムの一部として反復的に使うのは、ヒップホップの手法としてはよくあるもの」と。それはたしかにそう。でも、問題はそこではないでしょう。なぜそのように反復的に使用する声が、えずいているような「気持ち悪い声」でなければいけなかったのか。

 ただ、これも以前からのハチ/米津玄師の作品を聴きつづけている人にとっては、そこまで驚くべきものではなかったはずです。このような表現はこれまでもあった。

 ひとつの例は、先ほど聴いたばかりの「砂の惑星」です。イントロ冒頭からさっそく、なにを言っているかわからない加工された声で始まりますよね。「アンビリーバーズ」のイントロでも、「フェ……ッ」みたいな声が偶数小節の4拍目ごとに繰り返されます。

 では次の一例として、「ドーナツホール」を聴いてみましょう。

 ♪ハチ「ドーナツホール」

 この曲でも、イントロに「おっおっおっ、”#$%&’」みたいな、なにを言っているかわからない気持ち悪い声が入っています。

2022.07.19(火)
文=鮎川ぱて