
7月1日、東京・紀尾井町にオープンした「MAZ(マス)」は、今年いちばんとの呼び声も高いファインダイニングです。店を手掛けるのは、ペルーを代表するレストラン「Central(セントラル)」のヴィルヒリオ・マルティネス氏。後篇ではいよいよ、「MAZ」における未知なるペルー、味覚の旅へとご案内します。
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南米ベストシェフの世界観と生物多様性を表現するレストラン
南米を代表するシェフであり、ディレクターであるヴィルヒリオ・マルティネスシェフは、ユニークなコンセプトの料理を通じて、ペルーの文化や生物多様性、生態系の重要性を世界に伝えてきました。そして先日、満を持してオープンしたのが「MAZ(マス)」。ヴィルヒリオシェフと、彼らの研究機関「Mater Iniciativa(マテル・イニシアティバ/以下、マテル)」による、全20席の小さなファインダイニングです。

ヘッドシェフは、マテルのメンバーであり、ヴィルヒリオシェフが全幅の信頼を寄せる、ベネズエラ出身のサンティアゴ・フェルナンデス氏。スペイン・バスクの4年制料理専門大学で学位を取得後、「Central(セントラル)」に加わり、クリエイティブプログラムを担当。世界各地で開催される美食イベントでも活躍した、才気あふれる料理人です。

入店後、まず案内されるのは、ペルー独自の素材を石版の上に並べた「マテルテーブル」。「MAZ」のアイデンティティを象徴するものです。高地に育つカタバミの肥大した根っこ「オカ」、真っ白なじゃがいも「チューニョ」、料理の色付けに使う赤い実「アナトー」など、10数類の素材が並んでいます。いずれも見たことのないものばかりで、これから展開される世界が未知なるものであることを示唆しているようです。

ペルーの風土を高度ごとに並べたコースは、驚きと感動の連続
「MAZ」で提供される料理はとても独創的で、その世界観はペルーの風土そのものです。営業はディナーのみで、「VERTICAL EXPERIENCE(9つの異なる高度の旅)」と、そのヴェジタリアン向けバージョン(ともに24,200円、サ別)の2コース展開。いずれも、ペルーの異なる「高度」が織りなす風景と生態系を表現しています。

メニューを見ると、【冷たい海】、【砂漠海岸】、【熱帯雨林】、【極端な高地】、【海霧】、【淡水】、【アンデスの森】、【高地の森】、【アマゾニア】という9つのシーンが並び、それぞれに高度(マイナス2メートルから、4,200メートル)が記されています。例えば【冷たい海】の料理は、貝類やウニ、海藻を使い、器も含めて海岸の風景を想起させるもの。ちなみに、肉、魚介類、野菜などフレッシュな食材の多くは日本国内からこれぞというものを調達しているそうです。
「器は、ほぼすべてリマ在住のアーティストにオーダーしたものです。コロナ禍で準備期間が延びたので、創造性に富むたくさんの器を作ってもらうことができました。使っていくのが楽しみです」と、サンティアゴシェフ。



【熱帯雨林】からは、中南米原産といわれるユカ(キャッサバ)のピュレをアボカドで包んだ、色鮮やかな一品。トッピングの粒々は、これも中南米原産とされる穀物キウイチャ(アマランサス)と、キャビア。黄色いソースはパッションフルーツで、その爽やかな酸味が、アボカド独特の風味にマッチしています。
【アンデスの森】からは、「Huatia(ワティア)」という、アンデスのプリミティブな“大地のかまど”を再現した、じゃがいも料理。粘土にアンデスのハーブや塩を混ぜ、アンデス原産の小さなじゃがいも埋め込んで蒸し焼きにしたものです。大地のフレーバーをまとったじゃがいもに、ウチュクタと呼ばれるソース(アンデスのハーブと唐辛子、塩を合わせたもの)をつけていただきます。


もう1品は、国産の黒豚に、ヤーコン、オユコというペルーではポピュラーな芋類(どちらもコリコリした食感)のシチューを合わせたもの。トッピングには、きのこで作られた繊細なクリスプが散りばめられ、ビーツとハイビスカスのパウダーがかかっています。どの料理もイノベーティブですが、食べるとどこか懐かしさを感じるのが不思議。とても手がかかっているのに、ピュアな風味が損なわれておらず、体にスーッと染みわたっていきます。
2022.07.16(土)
取材・文=伊藤由起
写真=橋本 篤、平松市聖
コーディネイト=江藤詩文