
7月1日、東京・紀尾井町にオープンした「MAZ(マス)」は、今年いちばんとの呼び声も高いファインダイニング。店を手掛けるのは、ペルーを代表するレストラン「Central(セントラル)」のヴィルヒリオ・マルティネス氏。中篇では、MAZをより深く楽しむために、ヴィルヒリオシェフの料理を支える研究機関「Mater Iniciativa(マテル・イニシアティバ)」と、その活動拠点のひとつ「MIL」をご紹介します。
» 前篇はこちら
これからの食の意味を問う研究機関「Mater Iniciativa」とは?
ヴィルヒリオシェフのモットーは「Afuera Hay Más”(外にはもっとたくさんのものがある)」。クリエイティビティの源はレストランの外にあり、ペルー各地の多様な生態系や食文化を探ることから、生まれるという考え方です。これは、彼が主宰する研究機関「Mater Iniciativa(マテル・イニシアティバ)」の哲学でもあります。

Mater Iniciativa(以下、マテル)は、2013年、ヴィルヒリオシェフと、その妹で元医師のマレーナさんが設立した研究機関。ペルーのさまざまな地域を探検し、そこに住む人々から学び、地域に自生する植物(食材)とその背景に関する知識をカタログ化することを目的としています。
当初は、科学者や生物学者による食品研究が中心でしたが、現在では植物学者、人類学者、芸術家、言語学者、脳神経学者などとも協力し、多様で包括的な視点を持つ学術的なチームを編成。研究と活動の幅を広げています。

「次のステップとして、薬効のある植物をカタログ化することを考えています。ペルーにある多様な植物のなかには、食用としての価値や薬効を見過ごされていたり、忘れられたものもたくさんあります。それらをカタログにして残すことで、種の保存を促し、より多くの人に本来の価値を見直して欲しいと考えています」と、ヴィルヒリオシェフ。ペルーにレストランを構えて10数年、南米のベストシェフにも選出され、同業者にも注目されるなか、その責任を強く意識していると言います。



「特に若い世代のシェフに対する責任を感じています。彼らに良い影響を与えられる存在でありたいし、手本となるような活動をしていかなければなりません。そのためにも、マテルでのカタログ作りやリサーチを通じて、何がサスティナブルであり、フードシステム全体にとって良い影響を与えるものなのか、生態系の維持にとって必要なもの・不要なものを見極め、南米だけでなく世界中に向けて発信しています。それは、これからのガストロノミーが担う、責任のひとつだと考えています」
2022.07.15(金)
取材・文=伊藤由起
コーディネイト・写真協力=江藤詩文