映画は最後に、吾朗とも結ばれず、薬学の研究者として生きる和子の姿を描く。そこに深町らしい青年が通りかかるが、和子は気づかず、青年の後姿はドリーズームでさらに遠ざかっていく。

大林版の残した問い「その後の和子」と細田版、谷口版の“答え”

 和子はあのあとどう生きたのだろうか。大林版の中にその答えはない。だからこそ、“続編”の体裁をとる細田版と谷口版にはそれぞれの「その後の和子」についての、2つの作品なりの解答が示されている。

 細田版は、紺野真琴という少女と、間宮千昭、津田功介という2人の少年の物語だ。真琴は恋愛の絡まない3人の関係がずっと続いてほしいと思っている。真琴は、恋愛にというより、(大雑把な性格の割に)未来に臆病なのだ。

 彼女は決定的な選択をせず、モラトリアムの中にいたいと無意識のうちに思っている。だから彼女は、タイムリープの能力を手に入れると「同じことを何度もできる力」「あったことをなかったことにする力」として活用する。

 そんな彼女が悩み事を打ち明ける相手が、真琴の叔母である芳山和子だ。演じるのは原沙知絵。彼女は博物館で絵画修復の仕事をしており、真琴からは「魔女おばさん」と呼ばれている。「魔女」の言葉通り、ちょっと浮世離れをした雰囲気で、真琴がタイムリープをしたのだと説明をしてくれるのも彼女だ。

 

 千昭が未来へ去り、ようやく自分の気持に気づく真琴。それは恋を自覚した苦しさというより、タイムリープを繰り返して、千昭の自分への告白を何度もないことにしてしまった――前へ進もうとしなかった自分の行為への後悔を含む、苦い感情だ。

「どちらとも友達のままだと思っていた」

 そんな真琴に和子は、「真琴は功介くんとも千昭くんともどちらとも友達のままだと思っていた」と語り始める。「どっちとも付き合わないうちに卒業して、いつか全然別の人と付き合うんだろうなって」と話しかける。それに頷く真琴。そして和子は、自分の初恋を語り始める。

2022.07.08(金)
文=藤津 亮太