「高校の時、初めて人を好きになった。会ってすぐ仲良くなったの。まるで子供の頃から知ってるみたいだった。大人になる前にダメになっちゃった」

「いつか必ず戻ってくるって言ってた。待つつもりはなかったけど、こんなに時間が経っちゃった。……長くはなかった。あっという間だった」

 普通の初恋物語のようにも聞こえるが、「まるで子供の頃から知ってるみたいだった」という一節は、大林版の記憶の操作を思い起こさせるし、なによりこの時、カメラは書棚に飾られた高校時代の和子の写真を映し出している。

 そこには彼女を挟んで、2人の男子学生(背の低いほうの男子が吾朗に相当するのであろうか。原作の記述を踏まえずんぐりむっくりに描かれている)が映っている。そして写真の側にはラベンダーの花。

 こうした符丁から、この和子は、偽物の記憶から生まれた本物の恋に殉じていることを自分の意思で選び取り、今ここにいるであろうことが浮かび上がってくる。彼女はその決断を後悔はしていない。「待つつもりはなかった」「長くはなかった」という言葉にその意思の強さがにじむ。

 自分の人生を示した和子はその上で、「あなたは私みたいなタイプじゃないでしょ。待ち合わせに遅れてきた人がいたら、走って迎えにいくのがあなたでしょ」と真琴の背中を押す。人生の先輩として、真琴には真琴の決断があることを促す。それは真琴がこれまでのモラトリアムに幕を引く、大事な儀式だ。

細田版“和子と真琴の関係”と『おジャ魔女どれみ』の距離

 この細田版の和子と真琴の関係は、よく指摘される通り、細田監督が演出を担当した『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』の第40話「どれみと魔女をやめた魔女」の変奏でもある。

 このエピソードでは、魔女となり永遠の命を得た未来という女性が登場する。演じるのは大林版で和子を演じた原田知世だ。

 

 未来は、かつて愛した男がイタリアで90歳になっており、そのもとに、男が愛した女の孫として会いに行くのだという。未来はここで「再び別の姿で現れた深町」であり、同時に「(永遠の命に宿命付けられた)“喪失”を自分のものとして生きることを決めた和子」である。そして未来は、主人公のどれみに、自分と一緒にイタリアに来るか、と誘う。

2022.07.08(金)
文=藤津 亮太