「となりのチカラ」の主人公はこれまでの松本のイメージとは異なる。松本は嵐のコンサートの演出をつとめていることもあってキレ者の印象がある。演じる役も出世作「花より男子」(2005年TBS系)の御曹司・道明寺司などの華やかな役や「99.9」の弁護士などのように変わり者だが鋭い役が多い。否応なしに目立つ存在の役を演じてきた松本が「となりの~」ではともすれば見逃されてしまいそうな目立たない主人公を演じたことが新鮮だった。
団地のように見えるマンションに妻(上戸彩)とふたりの子供と4人で慎ましく暮らしているチカラ(松本)の仕事はゴーストライター。他者の話を聞いてその人の代わりに文章にする裏方である。
本当は自分の作品を書きたいがその夢はなかなかかなわない。その仕事のおかげもあってか他者の気持ちに寄り添うことができるためマンションの住人のトラブルを見逃せず、みんなの力になろうとするが、それもまたなかなかうまくいかずにから回りする不器用なチカラ。個性の強いイケイケな役ではない庶民の生活に寄り添う役によって松本潤のイメージが変わった視聴者もいるだろう。
比較的保守的かつ高齢の視聴者が多そうな印象のあるテレビ朝日で、誠実で親切な役を演じることで、古くからの大河ドラマ視聴者との親和性を図る戦略も感じるし、この体験を経てから演じる“徳川家康”はどんな雰囲気になるのか楽しみだ。
「家康」の番宣で、現場では「食事係」と発言していた松本。つねにおいしいものを差し入れるとか。そういう現場のムードをもり立てていくことはとても大事なことで、さすがだなあと感じる。広い目で全体を見通している印象のあるチームマツジュン、チーム家康に期待したい。
変わらず親しみやすさを大事にする、相葉雅紀
ふつうっぽい青年役といえば相葉雅紀の得意ジャンルである。嵐のなかでは最もふつうの人物を演じることを得意として来た相葉。スターであるジャニーズアイドルがふつうの役を演じることは貴重であったわけだが、いまや時代が追いついて来て、ふつうの役こそ主流になってきた。
2022.06.05(日)
文=木俣 冬