5月16日

イギリス人のアフターファイブ

 西欧とアジアの社会を分ける大きな文化的違いの一つに、アフターファイブの過ごし方があると思います。大げさに言えば、これは人生に対する姿勢。「大切なのは何か」を示す一種のステートメントでもあります。イギリスを含むヨーロッパ諸国では、間違いなくそれは「家庭」であり、プライベートライフの充実こそが生きている理由。故に仕事は定刻に上がり、一日の終わりは自分のために使う。どうしてもしなくてはならない場合を除き、残業はしない。その代わり勤務中はかなり真剣に仕事に取り組みます。

 会社としても残業を推奨しないので、遅れに対処するためにプロジェクトのスケジュールを変えることはあっても、残業や休日出勤でスケジュールに自分を合わせることはありません。仕事が「生きがい」とみなされる東洋社会とは一線を画する価値観です。

7月14日

コメディアンへのリスペクト

 コメディアンでいることは、この国ではかなりの称号です。人を笑わせることができるのは、社会の構造をよくわかった、客観的に物事を見ることができる人たちだからでしょう。この国のトップ大学を卒業しているコメディアンが多いのも偶然ではなく、ウィットに富んだ受け答えを素早くできる頭の回転の速さが必要です。もちろん大学に行かなかった素晴らしいコメディアンもたくさんいます。イギリス人が根っからのジョーク体質であることを考えると、人を笑わせたい衝動は少なからず誰の中にもあるのかもしれません。

 最も一般的なスタイルはスタンダップ・コメディと呼ばれる一人コメディ。筋書きを考え、自分のまわりのことを話しながら世相を斬ります。またシットコムと呼ばれるコメディ・ドラマも大人気。脚本にコメディアン自らが関わり、人気のドラマはシリーズ化していきます。

11月12日

動物福祉の先進国

 動物福祉では、おそらく世界をリードする国です。イギリスは世界で初めて動物福祉法を可決した国であり、2021年にはEU離脱後の新たな動物福祉の行動計画を政府が発表しました。そこには、これまで問題とされていた子犬の密輸をより厳しく取り締まること、犬の訓練用の電子首輪を禁じること、猿などの霊長類をペットとして飼うのを禁じること、違法なウサギ狩りを取り締まることをはじめ、動物福祉を包括的にレベルアップするための数多くの項目が盛り込まれています。国外の動物保護計画に関しても、資金援助していく方針。今後も動物愛護の世界的なリーダーとして存在感を示していきたいという思いが、ひしひしと伝わってきます。

 人間に動物を合わせるのではなく、その種らしくいられるように配慮するのが、イギリスのやり方だと感じています。

江國まゆ(えくに・まゆ)

イギリス情報ウェブマガジン「あぶそる~とロンドン」編集長。東京の出版社で書籍・雑誌の編集を経て、1998年渡英。英系広告代理店にて日本語編集者として活動後、2009年に独立。ライター、ジャーナリストとして各種媒体に寄稿中。著書に『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)、共著に『ロンドンでしたい100のこと 大好きな街を暮らすように楽しむ旅』(自由国民社)がある。20年以上住んでもなおロンドン愛は続く。

イギリスの飾らないのに豊かな暮らし 365日──英国の人たちから学びたい毎日を心地よく過ごすための鍵


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