今年3月、イギリス人の暮らしぶりを多彩なテーマで描き出したエッセイが出版されました。20年以上ロンドンに住む、江國まゆさんの著書『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし365日』です。

 この本から見えてくるのは、アフタヌーン・ティーの習慣などとは一線を画する英国の人たちの飾らない生活。さり気ないユーモア、優しさ、リスペクト。つつましく、そして何よりもフェアであることを心がけて。本の中から、いくつかのトピックをそのまま抜粋してご紹介。今回は「食」にまつわるエッセイです。


4月3日

イギリス家庭の夕ごはん

 日本の一汁三菜と同じく、基本は「肉+野菜2種」といわれています。「野菜」の一つはほぼジャガイモで、もう一つはニンジン、ブロッコリー、インゲン豆、冷凍グリンピースなどが代表的なもの。お芋はゆでたりローストしたり、はたまたマッシュしたりと、肉料理に合わせて姿も変幻自在。みんな大好きなポテトフライ(チップス)は、調理が簡単なオーブンで焼くタイプの冷凍食品を使う家庭も多いようです。

 料理への情熱に若干欠けるためか、決まったものを繰り返し食べているとの統計もあり、定番はソーセージ&マッシュ、シェファーズ・パイ、スパゲッティ・ボロネーゼなど。スーパーの調理済み食品や宅配のピザ、中華、カレーなども日常的に登場。そしてディナーの締めには必ず何か甘いものを! ただし近年は食への興味が向上し、新しいレシピに挑戦する若い世代も増えているようです。

4月17日

日曜はサンデー・ローストを

 イギリス人の日曜の過ごし方? その答えはかなりストレートです。「家族や友人とサンデー・ローストを食べる!」。サンデー・ローストとは、日曜日にいただく肉と野菜のロースト料理で、その昔、日曜日に地主が小作人をねぎらって肉のロースト料理を振る舞ったことが起源とされています。現在もこの慣例にならって、飲食店でもサンデー・ローストは日曜日にしか出さない、まさに日曜限定のごちそう。

 日曜はランチタイム以降、パブもレストランもロースト料理を食べる人々ではち切れんばかりににぎわいます。家庭でもロースト料理を作ることを口実に、家族や友人たちを招待してディナー会。想像してみてください。日曜のこの瞬間、イギリスのあらゆる場所で、みんながサンデー・ローストを食べている! 1週間の労働をねぎらい、完全にリラックスして語り合う。そんな国民的ディナータイムが、日曜の午後。

2022.05.19(木)
文・撮影=江國まゆ