今年3月、イギリス人の暮らしぶりを多彩なテーマで描き出したエッセイが出版されました。20年以上ロンドンに住む、江國まゆさんの著書『イギリスの飾らないのに豊かな暮らし365日』です。

 この本から見えてくるのは、アフタヌーン・ティーの習慣などとは一線を画する英国の人たちの飾らない生活。さり気ないユーモア、優しさ、リスペクト。つつましく、そして何よりもフェアであることを心がけて。本の中から、いくつかのトピックをそのまま抜粋してご紹介。今回は「イギリス人とは?」にまつわるエッセイです。


4月21日

紅茶は万能薬

 4月21日は紅茶の日。ホスピタリティー業界では紅茶関連のイベントが多数催されますが、紅茶に感謝しないといけないのはこの日だけではありません。朝起きてからベッドに再び入るまで、生活のあらゆる場面で何度でも登場し、その度に人々を温かく励まし元気付けている紅茶。この国では「A cup of tea can solve anything(1杯の紅茶に解決できない問題はない)」と言われています。私たちにはお茶を飲む時間=肩の力を抜いてほっとする時間が必要だということです。

 親権をめぐり家庭裁判所で10年にわたって争っていたカップルに、ある裁判官が「一緒に紅茶を飲む時間を作りなさい」とアドバイスしたところ、それが功を奏して解決に向かっていったとの話もニュースになりました。落ち込んでいる人に「お茶でもどう?」と差し出すだけで心は和み、ストレスが和らぐことは証明済みなのです。

5月11日

犬とイギリス人

 明るさが増してくるこの季節、公園では犬たちがうれしそうに走りまわっているのを見かけます。体面を重んじ、ときに家族にさえ本心を明かすことが難しいと感じているイギリス人にとって、犬たちは本当の気持ちを伝え合える心の友であり、人との交流とは全く違うレベルの安らぎを与えてくれる存在です。一人暮らしのイギリス人が犬にどれだけ助けられていることか。

 また、犬を連れているホームレスの人々が多いのもイギリス社会ではよくあることで、情緒的なサポートをするために希望者に与えられるようです。犬はホームレスの主人に片時も離れず寄り添い、また上流階級の息苦しさの中にいる人にもピッタリと家族として寄り添います。犬や猫がペットショップではなく、ブリーダーやレスキュー・センターからやって来ることからも、動物たちが家族として扱われていることがわかるはずです。

2022.05.21(土)
文・撮影=江國まゆ