映画村休憩所のテレビで流れていた倉木麻衣「Reach for the sky」(00年/平成12年)は朝ドラ『オードリー』主題歌。ひなたは、時代劇映画の世界に身を捧げ、結婚も出産もしない主人公と自分の境遇を重ねていた(第104回)。

 撮影所に戻ってきた五十嵐に誘われ、準備をするひなたの背後で流れるのは南こうせつ「夢一夜」(78年/昭和53年)。ひなたの様子は「着ていく服がまだ決まらない」の歌詞そのまま。店内ではるいが口ずさんでいたが、78年といえば桃太郎が2歳の頃。きっと幸せな思い出のある曲なのだろう(第105回)。

 ハリウッド映画の制作で湧く条映撮影所で流れているのは、Re:Japan「明日があるさ」(01年/平成13年)。もとは坂本九のヒット曲だったが、バブル崩壊後の不況から脱しようというコンセプトのCM用の曲として企画されて大ヒットした。再生を目指す撮影所にはぴったり(第106回)。

 るい、錠一郎、トミー北川(早乙女太一)が集まった「大月」のラジオで流れているのはCHEMISTRY「PIECES OF A DREAM」(01年/平成13年)。クリスマスの夜、それぞれの夢の欠片を集めた特別なステージで3人の化学反応(ケミストリー)が起こる。

 ラジオの曲はくるり「WORLD’S END SUPERNOVA」(02年/平成14年)に変わる。歌詞にあるように彼らは「みんなミュージックフリークス」である。

かつて安子が進駐軍のパーティーで耳にして涙した「きよしこの夜」

 雉真雪衣(多岐川裕美)が亡くなるまで勇(目黒祐樹)と一緒に観ていたのが朝ドラ『てるてる家族』。曲は流れなかったが、ドラマの中で「見上げてごらん夜の星を」(63年/昭和38年)が歌われた日の夜に雪衣は亡くなった。映し出された夜空にはアルデバランが輝いていた(第107回)。

 るい、ひなたらが聴いていたアニー・ヒラカワ(森山良子)が出演したラジオ「みんなあつまれ磯村吟です」で、磯村吟がかけたのは「きよしこの夜」(第109回)。かつて安子が進駐軍のパーティーで耳にして涙した曲だった。るいがアニー・ヒラカワこと安子と再会を果たしたステージで歌ったのは、もちろん「On The Sunny Side Of The Street」だった。

 焼け跡に置かれていた映画の看板『棗黍之丞友情歌』には「歌は世に連れ、世は歌に連れ… されど情があるから人間なのさ」という惹句が書かれていた。まさにこの言葉のとおり、歌謡曲が人々に寄り添い続けた100年を『カムカムエヴリバディ』は描いていた。

2022.04.14(木)
文=大山 くまお