結成23年目を迎えたバンド「いきものがかり」での物語性が感じられる歌詞表現や、3冊の著書を持つエッセイストとしての筆力を知る人ならば、「水野良樹が小説を書いた」と聞いてもさほど驚かないかもしれない。だが、こういう色合いの作品を書くと思った人はまずいなかったのではないか。

「清志まれ」というペンネームで発表された初小説『幸せのままで、死んでくれ』(文藝春秋)は、国民的キャスターとして成功を収めた桜木雄平の、知られざる──読者だけが知ることになる──内面を如実に描き出す。作家はなぜ、この人物の「死に様」を書いたのか?(全2回の1回目。後編を読む)

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違う表現だったら、音楽でやっていることとは違うことができる

──本の発売と同時に、「主題歌」として書き下ろされた同名楽曲のMVがYouTubeにアップされましたが、非常に破滅的で、ダークです。水野さんの歌声はメディアを通して何度か聞いたことがありましたが、これまでとは印象が異なっています。別名義ですから当たり前といえば当たり前なんですが、ここまでガラッと「作風」が変わったのは何故なのでしょうか。

 いきものがかりを知っている方にとっては、「逆」に行ったんだなと思われる気がするんですが、僕の中では「逆」という感じではないんです。そもそも自分にとって「いきものがかりの水野良樹」は、あくまでも僕という人間の一部なんですね。でも、世間に認知していただいた「いきものがかりの水野良樹」が自分の中でも、あまりにも大きな存在となってしまった。それ以外の自分をどう処理するか、どう表現すればいいのかを、30代に入った頃からずっと考えていたんです。

 そんな時に、文藝春秋の編集者の方から「小説を書いてみないですか?」と声をかけていただきました。そこで「違う表現だったら、音楽でやっていることとは違うことができるかもしれないな」と思ったんです。

 

──つまり、以前からもともと持っていたモノを、外に出した?

2022.04.07(木)
文=吉田 大助