はい。そのためにはいきものがかりという文脈からしっかりと離れたかったので、編集者さん(出版社)の了承をもらいました。2017年の春には、結果的には全ボツにした最初の原稿を編集者さんに送っています。いきものがかりは2017年1月に放牧(活動休止)して、2018年11月に集牧(活動再開)しているんですが、そのこと自体はあまり関係がなくて。実際、活動再開後もずうっと書いていましたからね。正直な話、周りのスタッフは「いや、歌書いてくれよ」って感じだったと思うんですよ(笑)。自分だけでも自分を信じてあげなきゃ、みたいな気持ちで書いている時期が長かったです。

──足掛け6年書き続けていたという事実の裏には、小説という表現を手放さなかった、諦めたくなかったという意志を感じるんですが、どこか魅了されるような感覚があったのでしょうか。

 最初は仕事の一つという感じだったんですが、途中から完全に魅了されてしまいましたね。物語を考えるということ、物語を通してさまざまな登場人物を浮かび上がらせること、それを文章で書くということが、簡単に言うとめちゃくちゃ楽しかったんです。

──ちなみに、ペンネームの由来とは?

 両親の名前をちょっともじったり、自分の息子に付けようと思っていた名前の一部を組み合わせて、清志まれ、としました。自分と血が繋がっている実在のものを虚構の名前に入れ込むことで、血が通うんじゃないかなと思ったんです。

“キャスター”を主人公にした理由

──小説の主人公は、キー局の夜の報道番組でメインキャスターを務める桜木雄平です。序章では桜木が、その日に病院で医師から深刻な病を告げられたらしいこと、妻の雅子と一人息子の悠馬という家族がいることなどが明かされます。そこから時計の針は巻き戻り、第一章では23年前、大学4年生だった頃の桜木のあどけない姿が語られていく。序章と第一章のギャップにより、23年の間に彼の「何か」が変わってしまったことが強烈に印象付けられます。

2022.04.07(木)
文=吉田 大助