冒頭はインパクトを出して、その後はこの主人公がどういうふうに成長していってしまったのか、国民的人気と知名度を持ったキャスターである「桜木雄平」という存在が、彼自身にとって手のつけられない存在になっていく過程を順々に見せていくシンプルな構成にしました。

 

──局アナとして新卒入社した当時の桜木は、本当にチャーミングですね。入社式にカメラが入るんだけれども、新人アナウンサー5名のうち自分だけ画角に入っていないことに気づいて、ぬっと顔を出したら「お前は背後霊か!」とゲストの芸人からツッコミが入る(笑)。カメラの画角というモチーフで魅力的な場面を作れるのは、実際にテレビに出ている人ならではなのではないかと感じました。桜木の愛されキャラぶりも、のちにスーパースターになっていく彼の道のりに説得力を与えています。

 僕が今まで何人か出会ったスーパースターの人たちって、愛される力を持っている方が多いんです。その人のちょっと抜けている部分が、みんなほうっておけないというか、愛情を注ぎたくなってしまう。自分の体験したそういう感覚が、桜木のキャラクター像に結びついていった気がします。

──そもそも、男性アナウンサーを主人公にした理由とは?

 人は仕事場での顔だったり、家族に向ける顔だったり、趣味の場での顔だったりと、いろいろな顔を使い分けて生きていると思うんです。でも、ある一つの顔だけが肥大化して、その人の人生を覆い尽くすようになってしまったら、相当しんどいんじゃないか。

 そんなことを表現してみたいなと思った時に、僕自身も片足を突っ込んでいる芸能界にいる人を主人公にするのはどうかなと考えたこともあったんですが、あまりうまく行かなそうだったんです。自分を商品化することに対して、なんだかんだ言って積極的というか自覚的ですから。そうではなくて、有名性はあるんだけれども、自己の商品化に対して積極的ではない人たちはいないかと探してみた結果、男性アナウンサーに行き着きました。僕のイメージするしんどさを、一番体現してくれる存在じゃないかなと思ったんです。

「“死”とは、自分がどういう人間かを決定づける最後のメッセージ」 “清志まれ”が語る、小説家としての夢 へ続く

2022.04.07(木)
文=吉田 大助