ああ、決勝にいくだけが目的じゃないもんやったんだろうなって思いましたね。もちろん優勝を目指す強いエネルギーを出してなければ、こうはならなかったとも思いますけど。
彩 返ってきたものは『M-1』じゃなかったけど、今の自分らにはこういう形やったんやなと。
『M-1』って実は……ラストイヤーの後に気づいたこと
――同じく『M-1』卒業後に活躍の場を広げている囲碁将棋さんは、以前のインタビューで「『M-1』が終わって正直ホッとした」と話していました。そういう気持ちもありますか?
幸 そうです。悔しさもあるけど、解放感は半端ないです。二度と『M-1』に出なくていいんだと肩の荷が下りましたね。それまで頭の片隅にずっとあるんですよ、『M-1』が。単独ライブしようがなにしてようが。それがなくなるだけでだいぶ楽ですね。
――『M-1』がなくなったことでネタや発想に変化はありましたか。
幸 だんだん焦ってない感じが出てきたかもしれないですね。柔らかくなったかもしれない。とにかく今は来てくれてるお客さんに意識がいくんですよね。『M-1』直後はもっと自分のセンスとか、アートを見せつけたい欲があった(笑)。
彩 作品を評価してもらいたいというのが強かったというか。
幸 単独はまた違いますけど、普段のライブはもう、今日来てるお客さんが楽しんで笑ってくれてるのが一番という感じですかね。
――それはすごい変化ですね。本来の「演芸」に帰ってきたというか。
幸 我々も楽しいし、お客さんも楽しいし。
――それもやはり『M-1』が終わったからこそ気づけることなのでしょうか。
幸 そうですね。今考えれば『M-1』も、普段寄席でするネタじゃないと優勝できないんですよね。なんやけども、ちょっと作品欲、オリジナリティへの執念みたいなのが強すぎて、誰も見たことのないものを作らねばと気負ってた。Dr.ハインリッヒというものはこれだ!という、そっちが強すぎたなって(笑)。
2022.02.04(金)
文=西澤 千央