「ユキちゃんて、お芝居できるんだね」

――バトルを繰り広げていた親御さんから、今の活躍についての反応は?

 反対していた割に両親は芸能界にとても疎いので、最初は「へー」みたいな反応でした(笑)。

 でもつい最近、衝撃を受けたことがあって。親は全ての作品を見ているわけではないんですが、たまたま出演作を見たんでしょうね。「ユキちゃんて、お芝居できるんだね」と母から言われたんです。驚きました。

 でもその適度な距離感が私にとっては心地よくて。「コレ見たよ」、「あの俳優さんってどういう人なの?」なんて、両親も姉も一切言わないですから。

 ちょっと変わってるのかもしれないですね。ベタベタ期はなかったし、親離れも早かった。母は「うちはドライな一家だから」と言っています。

――たしかに桜井さんといえば、クールな印象もあります。

 それは演じた役の影響でしょうね。普段はクールどころじゃない日常を過ごしていますから(笑)。ただ、物事の考え方とかは割とハッキリしていると思います。

 20代前半までは「これもしたい」、「あれもしたい」、「もっとこうなりたい」という理想がすごくあって、がんじがらめになっていたんです。でも色んなことに悩んで悩んで翻弄されていった結果、プライベートでもお仕事でも、あきらめていく術を身につけました。それが20代半ば頃でしたね。

 それは別に何かを放棄することとは違うんです。物事が起こった後のエネルギーの使い方の問題。

 昔は「どうしてこうしてくれなかったんだろう」と思い悩んでいましたが、そういう自分が心地よくなかった。すべて思い描く理想通りに物事が運ぶことは不可能だと気づいてからは、「済んだことは仕方がない」と切り替えて、対策にエネルギーを使うようになったんです。

 あきらめるようになったのは、他の人に対してはもちろん、自分に対しても同じ。立ち位置や置かれている状況、自分の中にある知識や経験など、全部一回受け入れる。その上で、「じゃあどうしよう」と考えられるようになってからは、気持ちも楽になりました。

 自分の中にあるもの以上のことを出そうとしても無理ですからね。

2022.01.05(水)
文=松山 梢
撮影=杉山拓也
ヘアメイク=石川奈緒記
スタイリスト=李靖華