エドガー・ライトは一拍置いて言う。
「その問いに対する僕なりの答えが『ラストナイト・イン・ソーホー』だと思う。クエンティンと違って、僕の映画のほうは、過去の悲劇を変えることはできないけど、その悲劇を経験して、未来を変えるんだ」
女性を解放したスーパー・ヒロイン
引っ込み思案だった孤独な少女エロイーズは60年代の幻想に逃避し、サンディと一体化することで、自分の殻を破っていく。そして、60年代のダークサイドを経験したサンディは強さを獲得して生まれ変わる。
「悪しきもの無しに善きものを得ることはできない、ということだよ」
『ラストナイト・イン・ソーホー』は、昨年82歳で亡くなった女優ダイアナ・リグの遺作で、彼女に捧げられている。ダイアナは『女王陛下の007』(69年)でジェームズ・ボンドの花嫁トレイシーを演じたことで有名。
「僕も007は好きだけど、ダイアナに出演を依頼したのは、彼女がエマ・ピールだからさ。『おしゃれ(秘)探偵』(61~69年)の。子どもの頃、テレビで何度も観たんだ。あの番組こそ、僕にとっての60年代のカッコよさそのものなんだ」
『おしゃれ(秘)探偵』The Avengersでダイアナ・リグが演じたエマ・ピールは、最新のファッションに身を包み、科学者でもある知性で犯罪を暴き、格闘技で悪党どもを退治する、おしゃれで強くて頭の切れる元祖スーパー・ヒロインだった。60年代に女性を本当に解放したのは、ミニスカートよりも、エマ・ピールかもしれない。
INFORMATION
『ラストナイト・イン・ソーホー』
12月10日(金)、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
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2021.12.10(金)
文=町山 智浩